雨ニモマケズを翻訳する

 相変わらず突然の話題で恐縮だが、詩の翻訳というのは実は半ば創作ではないかと思うのである。特に、ヨーロッパ系の言語と日本語のように文の構造が全く違う言語間の場合には、韻やリズムが全く別物になってしまう。意味を変換するという意味での「訳」だけでは詩としてのよさ、楽しみが失われてしまうから、訳と言いながら、たいていは詩としての面白みを翻訳者が「創作」するのである。

 言葉方面で最近、進歩している分野のひとつに機械翻訳なるものがある。これを使って日本語の詩を英文に、英文を日本文に変換してみたらどうなるか、というのが本日の趣旨である。

 使う翻訳サービスはGoogle Translateにする。

→ Google Translate

 リンク先をご覧になるとわかるように、Google Translateでは訳されるほうの言語と訳す側の言語を選ぶことができる。これを「日本語」と「英文」にして、交互に切り替えていく。
 訳す詩は宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の出だしに決めた。次の文だ。

雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ丈夫な体を持ち、欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。 

 機械翻訳が混乱しないように、改行部分を読点に置き換えた。原文はカタカナだがひらがなに変え、開いている部分は現代の一般的な漢字表記に変えた(「マケズ」→「負けず」など)。また、文語調のところは現代風に改めた(「ワラッテヰル」→「笑っている」)。原文のよさはだいぶ損なわれるが、機械翻訳のハンデをなるべく減らしてあげるための措置だ。
 ではまず、日本語から英語へ。こうなった。

Not lose to rain, do not lose to the wind, has a strong body, not lose, even in the summer heat also snow, not greed, is not never angry, you are always quietly laughing.

 英語から日本語へ(以下、略)。

ていない風に失うことはありません、雨に負け、強い体を持って、夏でも、熱、雪ではなく、貪欲に、負けない、あなたはいつも静かに笑っている、決して怒っていないです。

 いわゆる主語を省略する日本語の特徴が影響したようである。「私」の話が「あなた」に変わってしまった。しかし、「あなたはいつも静かに笑っている、決して怒っていないです。」とはなかなか感動的なフレーズではないか。

There is no losing in the wind does not, and lost to rain, with a strong body, even in summer, heat, rather than snow, greedy, and not lose, you're always quietly laughing, it is not never angry.

そこ風には負けはしないではない、と、夏でも、強力なボディと、雨に熱ではなく、雪、貪欲を失った、と、あなたはいつも静かにそれは決して怒っていないですが、笑っている失うことはありません。

「夏でも、強力なボディ」。何かの広告コピーに使えそうだ。

Not not losing out there style, and, even in summer, and a strong body, rather than the heat to the rain, snow, I lost greedy, and, as you always quiet, but it is not never angry, laughing do not lose there.

ありません失わない笑って、そこにスタイルを失うこと、および、夏でも、と強い体ではなく、雨、雪に熱が、私はあなたが常に静かとして、貪欲失い、が、それは決して怒っていないではありません そこ。

 混乱した中国人が必死に弁解しているような文章になってきた。

Laughing is not lost and does No, there losing the style, and, even in summer, and not a strong body, rain, heat to snow, I as you are always quiet, greed lose, but, it is not never angry There is no there.

それがあり、決して怒っているではない、笑うが失われていないされていないと、雪に強い体、雨、熱がスタイルを失い、そして、夏でも、ありません、私はあなたが欲を失う、常に静かなんですんので、しかし、何もありません。

機械翻訳氏は「決して怒っているではない」と怒っていないことに妙にこだわっているようである。さっきは「夏でも、強力なボディ」だったが、その後、4回翻訳を繰り返すと「雪に強い体」に変わってしまった。「私はあなたが欲を失う、常に静かなんですんので、しかし、何もありません。」。何か、突然放り出されたかのような、茫然とさせる文章である。

There is it, not to have never angry, When you laugh has not been not lost, strong body in snow, rain, heat loses style, and, even in summer, it does No, I you lose the greed, because I'm always quiet, however, there is nothing.

あなたが失われていないされていない笑うときは、持っていない、決して怒ってあり、強い体は雪の中、雨が、熱が私はので、私はあなたが、欲を失い、それはありませんを行い、夏でも、スタイルを失い、常に、しかし、何も静かありません。

 だんだんドラマチックになってきた。熱を帯びてきた。しかし、相変わらず最後は「スタイルを失い、常に、しかし、何も静かありません。」と、虚無への強引な飛躍で終わる。

When you laugh you are not not lost, you do not have, it Yes never angry, in a strong body of snow, the rain, the heat is I, I you, lose the greed, the is not it is carried out, even in summer, lost the style, always, however, there's nothing quiet.

あなたが失われていないされていない笑うとき、あなたも、私は、欲を失い、それが行われていないあなた、それははい決して怒っている、雪の強力なボディに、雨が、熱は私です、持っていません夏には、常に、しかし、静かな何もない、スタイルを失いました。

 ここに至って、機械翻訳氏は失望感を覚え始めたようだ。

When you laugh you are not not lost, even you, I will lose the greed, you that it has not been performed, it is yes you are never angry, powerful body of snow, rain, heat I it is, in the summer does not have, always, however, there is nothing quiet, it has lost the style.

あなたはも、あなたは、私はそれが行われていないあなたこと、欲を失うことになる、失われていないされていない笑ったとき、それは夏がないであなたは、雪、雨、熱がそれは私の強力なボディ怒っされることはありませんイエスです常にではない、しかし、静かなものはない、持っている、それがスタイルを失ってしまいました。


 失望感から喪失感になってきた。何かが機械翻訳氏の中で深まりつつあるようだ。

Even you, you, you that I it has not been performed, it will lose the greed, when you laughed it has not been not lost, you It's no summer, snow, rain, heat it's not always it is Jesus who will not be angry my powerful body, however, there is nothing quiet, you have, it was lose the style.

それが行われていない私はそれが失われていないされていない笑ったときにも、あなたは、あなたが、あなたは、それはあなたそれは夏、雪、雨ません、欲を失うことになること、それはできません誰がイエスであることは必ずしもありません熱しかし、静かな何も私の強力なボディはありません怒っている、あなたが持っている、それがスタイルを失いました。

 「あなたは、あなたが、あなたは、それはあなた」。小坂明子の「あなた」を歌いたいのだろうか。あの「強力なボディ」はなくなってしまった。「スタイル」も失われた。喪失が機械翻訳氏を侵食しつつある。

Even when I was laughing that it has not been not lost that it is not being performed, you, you, you, it is you it is summer, snow, does Mase rain, that you will lose the greed , it can not who but a is that it is not necessarily heat Jesus, quiet nothing angry it is not my strong body, you have, it has lost the style.

私はそれはそれは行われていないと失われていないされていないことを笑っていた場合でも、あなたは、あなたが、あなたは、それはあなたがそれはある夏、雪が、間瀬の雨はありません、あなたは欲を失うことになること、それができない人が、aが、それは必ずしもイエスを加熱していないことである、静かな何も怒っている、それは私の強い体ではありません、あなたが持っている、それがスタイルを失ってしまいました。

I even if it is it was laughing that it has not been not lost and has not been performed, you, you, you, it's summer you it is it, snow, there is no rain of Mase, you that you will lose the greed, the people it can not, a will, it is that you do not necessarily heating Jesus, quiet nothing angry, it is not my strong body, you have , it was lose the style.


それは、それが失われていないされていないと行われていないと笑っていた場合であっても、私は、あなたが、あなたは、あなたが、それはあなた、それをある夏、雪、間瀬の雨があなたがあなたが欲を失うことは、ありませんです、それができない人、意志、それはあなたが必ずしもイエスを加熱していないということです、静かな何も怒っている、それは私の強い体、あなたが持っている、それがスタイルを失いましたされていません。

(間瀬の雨とは何だろう)

It is, even if it had been laughing and not being carried out not to be not lost, I, you, you, you, it is you, the summer that it, snow, Mase of that rain lose you your well is not, No, people can not be it, will, it is that you do not necessarily heating Jesus, quiet nothing angry, it is my strong body, you have, it will not have been lost style.

それは、それは、雪、その雨の間瀬があなたの井戸がないあなたを失うことは、それはあなたです、、、、、それは失われていないことがないように行われて笑っていないされていた場合でも、夏あなたあなたあなた私ですいいえ、人々は意志、それはあなたが必ずしもイエスを加熱していないということです、それをすることはできません、静かな何も怒っている、それは私の強い体である、あなたが持っている、それはスタイルが失われたことはありません。

 テーマは「あなた」と「私」に変わってきたようだ。「あなたが必ずしもイエスを加熱していない」と、キリスト教ゴルゴダの丘、原罪の問題すら現れてきた。しかも、機械翻訳氏はとうとう「それはあなたです、、、、、」と余韻を表すテクニックまで使い始めた。

If it is, it, snow, and Mase of the rain that lose you are not your well, it is you,,,,, it had not have been laughing and being carried out so as not to not lost but, summer you you are you and me no, people will, it is that you do not necessarily heating Jesus, you will not be able to do it, quiet nothing angry, it is my strong body , you have, it is not that style has been lost.

もしそうであれば、それは、あなたが十分ではありません失わ雨の雪、および間瀬は、それはあなたが,,,,,それはあなたの夏、あなたを笑ってきたていなかったとように失われたではなく、しないように行われていますあなたと私はありません、人々はあなたが必ずしもイエスを加熱しない、それがされることであり、あなたがそれを行うことができなくなり、静かな何も怒っている、それは私の強い体である、あなたが持っている、それが失われたそのスタイルではありません。

If so, it is, you have snow of rain it lost not enough, and Mase, it you,,,,, it your summer, rather than lost as had not have been laughing at you , is not as it has been done you and I do not, people are not heated you always yes, it is that it is, you are no longer able to do it, quiet nothing angry, it is my strong body, you have, not in its style it has been lost.

もしそうなら、それは、あなたは雨の雪は、それが十分ではありません失われた、としてい間瀬、それあなた,,,,,それそれはあなたを行われているとして、あなたの夏は、むしろあなたに笑ってきたしていなかったとして失わよりも、ではありません私は、人々ははい、それはそれがあるということですいつもあなたを加熱されないいない、あなたは、もはやそれを行うことができるではない、静かな何も怒っている、それは私の強い体である、あなたが持っている、そのスタイルで、それが失われていません。

「はい、それはそれがあるということです」「それは私の強い体である、あなたが持っている、そのスタイルで、それが失われていません」。機械翻訳氏はここで喪失感を乗り越え、確信を手に入れた。

If so, it is, you can snow of rain, as it was lost not enough, with the city have Mase, it you,,,,, it it has been done for you, you of summer, you rather laughing than lost as did not Kitaichi been, a no I have to, people Yes, it is that there is it not not always heated you, you will not longer be able to do it, quiet nothing is angry, it is my strong body, you have, in its style, it has not been lost.

それは間瀬を持っている都市で、十分ではない失われたとしてもしそうなら、それはあなたが夏の、それはあなたが,,,,,それはそれはあなたのために行われている、雨の雪することができ、あなたがむしろとして失わよりも笑って北一ていなかった、静かで何も怒っているではありません、それは私の強い体私は、人々ははい、それは、いつもあなたを加熱しないではない、それが存在することであるあなたはもはやそれを行うことはできませんする必要が全くあり、あなたは、持っていませんそのスタイルで、それは失われていません。

It is a city that has a Mase, if sufficient, even likely as lost not, it is you of summer, it is you,,,,, it it has been done for you, be snow of rain can, you did not north one laughing than lost as rather, does not quiet and angry anything, I think it is my strong body, people Yes, it is always not without heating you, it is that there you is no longer at all need to not be able to do it, you will, in the does not have style, it is not lost.

ない失われたとしてそれは間瀬を持つ都市である、十分な場合でも、それは夏のあなたがそうである、それはすることができます、あなたは北なかった雨の雪も、それはそれはあなたのために行われている,,,,,あなたです一つとしてではなく、私はそれが私の強い体であると思い、人々はい、それはあなたを加熱することなく、常に何も静かで、怒っていないですしない失ったよりも笑って、それはあなたがもはやありませんがあるということですすべてで行うことができないようにする必要がありますそれは、あなたが、持っていないスタイルで、それが失われることはありませんします。

It is a city with it Mase is as lost not even enough case, it is the case that your summer, it can be, even snow of rain you did not north, it is it for you rather than as,,,,, is your one that has been done, I think it is my strong body, people Yes, it is without heating you, always quiet nothing, it is not angry it is then not laughing than lost in, it must ensure that can not be done at all it is that you are there is no longer it is, you are, in a style you do not have, you to do not that it is lost .

それは,,,,,ていなくても十分な場合を失ったよう間瀬が、それはあなたの夏は、それができる場合、あなたは北、それはとしてではなく、あなたのためにそれをされていなかった雨のさえ雪ですそれに都市です行われているあなたの一つは、私は人々はい、それはあなたを加熱することなくある、それは私の強い体であると思いますが、常に静かで何も、それはその後で失われたよりも笑っていません怒っていないではない、それはそれはで行うことができないようにする必要がありすべてのそれはあなたのスタイルで、あなたはそれが失われないことを行うために、持っていない、あなたは、それはもはや存在しないということです。

 機械翻訳氏は相変わらず「私の強い体」にこだわりつつ、ここに至って「あなたはそれが失われないことを行うために、持っていない、あなたは、それはもはや存在しないということです。」とある種の宗教的立場に立ち始めたようだ。先ほどのキリスト教的テーマから変転して、この文章全体から感じとれるのは仏教的世界観である。

 宮沢賢治の最初の文と二つ並べて比較してみよう。

雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けぬ丈夫な体を持ち、欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。 

それは,,,,,ていなくても十分な場合を失ったよう間瀬が、それはあなたの夏は、それができる場合、あなたは北、それはとしてではなく、あなたのためにそれをされていなかった雨のさえ雪ですそれに都市です行われているあなたの一つは、私は人々はい、それはあなたを加熱することなくある、それは私の強い体であると思いますが、常に静かで何も、それはその後で失われたよりも笑っていません怒っていないではない、それはそれはで行うことができないようにする必要がありすべてのそれはあなたのスタイルで、あなたはそれが失われないことを行うために、持っていない、あなたは、それはもはや存在しないということです。

 断言する。これは「詩」である。機械翻訳氏が32回の翻訳という呻吟の果てに創り出した「詩」である。