地獄のレイシスト

 相変わらず、阿呆なことばかり考えている。
 日本では昔から、死ぬと三途の河を渡って、閻魔様のお裁きを受けるということになっている。
 おれのイメージでは、亡者の人々が並んで順番に閻魔様の前に立つ、というふうなのだが、だとしたら、並ぶのは日本人だけなのだろうか。それとも、他の社会の人々も並ぶのだろうか。
 日本人も、中国人も、ラオス人も、パキスタン人も、インド人も、ロシア人も、イラン人も、サウジアラビア人も、エジプト人も、ナイジェリア人も、南アフリカ人も、ハンガリー人も、ドイツ人も、イギリス人も、カナダ人も、アメリカ人も、メキシコ人も、カリブのいろんな島々の人たちも、ブラジル人も、チリ人も、オーストラリア人も、ニューギニア人も、インドネシア人も、フィリピン人も、台湾人も(ふう、相当はしょりながらもどうやら世界一周できたようだ)、みーんな一緒に閻魔様の前に並ぶんだろうか。
 グローバル人材の育成が叫ばれる世の中だ。気になる。
 もしグローバルに人が並ぶなら、我々の抱いている閻魔様と地獄のイメージは大きく修正しなければならない。下手すりゃ、アメリカの連続射殺魔か誰かと一緒に並んだりすることだってありうるわけだ。もっぱら東アジアの黄色人種のみが並ぶのなら、あの世に人種差別のにおいがする。日本国民だけが並ぶのなら、領土問題が閻魔様の職分と地獄の領域区分にまで影響する。民族的な意味での「日本人」だけが並ぶのなら、これからどんどん区分けが難しくなるだろう。文化的な予備審査が閻魔様の裁きの前に必要になってくるんではないか。
 閻魔様への列を整理する鬼を「このレイシストめ!」と罵ることもありうるのだろうか。
 有能な弁護士の方には、あの世にいったら、ぜひそのあたりの法的根拠について閻魔様を追求していただきたいと思うのである。