不作為の罪、作為の罪

 統一地方選挙が終わって、ようやく静かになった。
 何がうるさいって、選挙カーである。地方選挙の場合は国政選挙に比べて一選挙区あたりの候補者数がやたらめったら多いから、密度が濃くなる。そのうえ、選挙ボランティアの人々というのは投票が近づくにつれてアセるのか、煮込まれるのか、どんどんボルテージが上がるらしく、街はもはや狂乱状態の人々に拡声器を持たせて野に放ったかのようであった。
 選挙カーというのは候補者の名前を連呼するばかりで芸のないことだと以前から思っていたのだが、あれは実は公職選挙法で連呼以外を禁じられているのだと聞いた。本当かな、と思って公職選挙法を見てみたら、こうあった。

第百四十一条の三  何人も、第百四十一条の規定により選挙運動のために使用される自動車の上においては、選挙運動をすることができない。ただし、停止した自動車の上において選挙運動のための演説をすること及び第百四十条の二第一項ただし書の規定により自動車の上において選挙運動のための連呼行為をすることは、この限りでない。

 要するに、走り回る自動車から連呼だけはしてもよい、ということらしい。となると、選挙カーは必然的に候補者の名前かスローガンだけをまき散らすことになる。
 アホか。
 日本で生まれ育った人の多くにとって、選挙のイメージと候補者の名前をわめき散らす選挙カーの連想は重なるだろう。選挙カーは日本の選挙のイメージの少なからぬ部分を形づくってきたとも言える。しかも、この規定、半世紀も前につくられたのだそうだ。ただただ名前とあいまいなスローガンを連呼するばかりの選挙カーが、選挙あるいは投票の意味の重さをどれだけスポイルしてきたことか。
 公職選挙を所管する官庁は総務省だが、半世紀もこんな規定を放置してきた罪は重いと思う。不作為の罪ではないか。そして、立法府の罪はもっと重い。
 公職選挙法選挙カーの禁止を訴える国政選挙候補者がいたら、おれはもしかしたら投票するヨ。少なくとも、検討はする。
 ひどいと言えば、これもまたひどい話だ。総務省が今回の統一地方選挙に向けて、こんなキャンペーンを行った。多少、話題になったので知っている人もいるだろう。

→ 総務省 報道資料一覧 - 総務省×鷹の爪団 「選挙はマナーだ!」キャンペーンを3月20日から開始します

 選挙はマナーではない。総務省、目を覚ませ。