おれは会社員で、職種はコピーライター/プランナーである。
自分で会社を興す気はないが(おれに経営なんぞできるわけがないという負の自信がある)、もし会社を作ったらどんな社名がいいだろう、とあれこれ想像してみるのは割に好きである。
例えば、大きく出るのなら、
帝国コピーライティング
なんていうのがいい。「帝国」という大仰な響きと、「コピーライティング」というセコい仕事(同業のミナサン、ごめんなさい)の組み合わせが何とも摩訶不思議な空気を醸し出す。
電話に出るとき、「ハイ、帝国コピーライティングでございます!」と答えるところを想像すると、なかなか楽しい。
おれの仕事のレベルをもう少しきちんと表すなら、
代書の稲本
というのが正しい。
コピーライティングというのは、少なくともおれの場合、お客さんが言いたいけどはっきり言葉にまとめられないでいることを、代わりに「こういうことですよね?」と言ってあげる/書いてあげる仕事である。しかし、社名をそのまま受け取って、「すんまへん、り、り、履歴書、書いとくんなはれ」と落語の「代書屋」みたいなお客さんが駆け込んできても困るので、この社名は実用上問題があるかもしれない。
株式会社当たり屋
なんていうのはどうだろう。ヒットコピーをばんばん飛ばしそうではないか。
しかし、これもまた、
「おう、あんたか当たり屋やってんのは。悪いけどな、明日の12時半に第一京浜で当たってほしいベンツがあるんや」
などとヤクザからの依頼の電話がかかってきては困る。なかなかうまくいかない。
おれの性格を表すなら、
株式会社照れ屋
である。
「あ、もしもし、照れ屋さんですか」
「いやあ」
などと、電話口でいきなり照れるのだ。相手にとって、不審感バツグンである。もちろん、打ち合わせでもずっと赤面状態だ。
もっと行くと、
株式会社恥ずかしがり屋
というのもいい。
「ああ、もしもし。ちょっとコピーの仕事を一本お願いしたいのですが」
「イヤーン」
「もしもし。あのね、知り合いの○○さんからの紹介で電話したんですが」
「アハーン」
三秒で電話を切られるだろう。
なかなか難しいもんですニィ。