スポーツに舞を入れるな

 おれは踊り、ダンス、舞踏の類いに関する感性があまりないらしく、それらを見て感動した覚えがほとんどない。ブレイクダンスなどで物凄い動きを見ると「おー!」と感心はするが、それは軽業的動きに対する感心であって、ダンスそのものとして楽しんでいるのかというと自分でもよくわからない。昔、ストックホルムスウェーデンを代表するバレエ団の公演を見せてもらったことがあるのだが、退屈で、退屈で、2時間が地獄であった。
 とまあ、そんな鈍い男の意見なのだが、オリンピックなどで踊り的要素が入った競技、たとえば、シンクロや新体操、フィギュアスケートなど、あれらはどうなんだろう。技術点というのは何となくわかる。数値的基準が作れそうだ。しかし、芸術点となると、あくまで審査員個人個人の恣意的な採点しかありえないんじゃないか(一応は採点基準があるんだろうけど、計測できるものではないように思う)。
 昔、立川談志が何かで「スポーツに舞いを入れるな」と言っていたことがあって、おれはすこぶる共感した。舞いにスポーツ的要素が入るのはいいが、スポーツに舞いが入ると、厳密にはスポーツでなくなるんじゃないかと思う。あるいは、舞いをスポーツ化していいんだろうか。もしそうなら、例えば、歌舞伎舞踊だってスポーツ化できることになる。連獅子で二人がどれだけ早く髪を回せるか、同調できるかを技術点にするとか、あるいはフリー演技の立ち回りでその他大勢がわっと出てきて、主役の振り回す刀に合わせてトンボを切るのを技術点として採点するとか(東洋人以外が歌舞伎の格好をすると、はなはだ珍妙に見えそうだが)。
「スポーツに舞いを入れるな」。おれもそう思うのである。だいたい、芸術点という考え方がよくわからんし、スポーツにそぐわんように思うのよね。
(白状すると、おれにはフィギュアスケートとか、何が面白いのか、よくわからんのです。ごめんなさい。いっそ、浅田真央キム・ヨナが同時に滑って、回転キックを飛ばし合ってスケート靴の刃で相手の頬を狙い合うとかなら、理解できるし、コーフンすると思うが)