物事の明るい面と暗い面と

 まずは黙って次のムービーをご覧いただきたい(別にわめきながらでもかまわないが)。カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで2013年のグランプリを獲ったダヴのCMである。

 顔を見ないで、最初に本人に自分の顔について語らせ、それをもとに似顔絵を描く。次に、他の人にその人の顔について語らせ、それをもとに似顔絵を描く。比べると、他人は本人が思っているよりずっと美しく、明るい顔としてその人を捉えている。そして最後に〆のコピーとして、「気づいてください。あなたは、自分が思うよりも、ずっと美しい」。
 よくできた広告だと思う。人は、自分の嫌な部分、暗い部分ばかりを見がちだけれども、他人にはずっと美しく、幸福そうに見えている。その美しさに気がつくべきだ、大切にすべきだ、というメッセージである。
 ま、しかし、と天の邪鬼のおれは思うのだ。ってことは、美しく見える人、幸せそうに見える人だって、内面は暗い、とも言えるじゃないか。……スンマセン、スンマセン、スンマセン。言ってみたかっただけです。
 よく「要は気の持ちようだ」みたいなことを簡単に言う人がいる。世の中にはそんな言葉では済まないような苦しみや暗さを抱えている人もいるだろうから、おれはそう安易に一般論にしたくない。が、まあ、実際、悲劇的なことが見ようによっては喜劇的になったり、その逆になったりすることはある。可能な範囲で、物事は明るく見ていたほうが、少なくともラクではある。
 最後に、おれの大好きな歌、モンティ・パイソンエリック・アイドルの「Always Look on the Bright Side of Life」。ゴルゴダの丘で十字架に磔になったイエス(正確にはイエスと間違われたブライアンという男)に向かって、他の磔になった罪人達が「♪人生の明るいほうを見ていよう」と唱いかけ、口笛を吹く、というとんでもないシーンである。おれが思うに、二千年かけてできあがった最高のブラック・ジョークであり、最高のメッセージだ。