仮名手本忠臣蔵を見る

 土曜日に新橋演舞場仮名手本忠臣蔵の通しを見た。
 中村福助を別とすれば市川染五郎市川亀治郎尾上菊之助尾上松緑と、三十代から四十くらいまでの若い役者が中心で、どうなるのかなと思っていたのだが、溌剌として、思いの外よい舞台だった。
 特に染五郎は由良之助らしくどっしりと構えたなかにも鋭さのある感じで、歌舞伎役者は年をとれば自然と風格が出てくるものなのだな、と感心した(染五郎個人の精進の賜なのかもしれないが)。師直、平右衛門二役の松緑は剽げたところが楽しく、塩冶判官の菊之助切腹は緊張感高くまた美しかった。勘平の亀治郎は、福助との道行は踊りが苦手なのかやる気がないのか、こなしているという感じだったが、五段目・六段目に入ってからは見違えるような熱演で、圧倒した。歌舞伎のキャスティングがどういうふうに行われるのかは知らず、松竹の指示によるものか、役者間の談合によるものかわからないが、ともあれ、上手にスターを育てていくやり方には感心する。
 これまで、映画やテレビドラマで忠臣蔵をネタにしたものは数々見てきたのだが、正直、特に面白いと思うものに出会ったことがなかった。仮名手本忠臣蔵の通しは初めて見たのだが、なるほど、これは面白く、よくできている。暗い、凄惨な場面と、明るい場面が交互に登場し、適度に笑いをちりばめて、客を飽きさせない仕掛けになっている。元々の台本が優れていることと、先人達が工夫を重ねて演出を磨いてきた結果なのだろう。いろいろな演出を試みて、よいもの、面白い部分を残していってるのだと思う。
 ちょっと心配だったのは客の入りで、土曜日なのに夜の部は八割くらいの入りだったろうか。若い役者達の思い切りと熱演が見物なので、もったいない。