国民的歌

 前回書いた南アの歌「ショショローザ」は、クリント・イーストウッド監督の「インヴィクタス」でも効果的に使われていた。
 マンデラ大統領の下、白人と黒人の融和という使命を課せられた南アフリカラグビー代表がワールドカップ決勝に進出する。ワールドカップ優勝によって国家統一を前進させたいというのがマンデラ大統領の意図だった。決勝の相手は、当時世界最強と謳われたオールブラックスニュージーランド代表)である。
 南ア代表が劣勢に立たされたとき、スタジアムの観衆の間で「ショショローザ」の大合唱が起きる。南アのキャプテン、フランソワ・ピナールが選手を集め、天を指して言う。
This is it! This is our destiny!(これがそれだ! これが俺たちの宿命だ!)」
 感動的な場面だった。
「ショショローザ」は実際、国際大会などでよく歌われるらしい。

 元々は黒人労働者の間の労働歌だったが、今では黒人、白人関係なく歌うようになっている。こういうのを国民的歌と言うのだろう。
 振り返って、日本を考えると、流行歌はあっても、大きなスポーツ大会で自然発生的に歌われる国民的歌はないように思う。
 サッカーの大会でよく歌われるオレオレ言う歌は日本だけのものではない。君が代は歌としてはなかなかよいメロディだと思うが、いかんせん、曲が重たすぎて、選手達を勇気づける感じではない。
 かつて国民的歌だった(らしい)「リンゴの歌」がスタジアムで大合唱されるところを想像するとどうだろう。

♪赤い〜リン〜ゴ〜に〜、くちび〜る寄〜せ〜て〜

 選手達はずっこけるだろう。

「ショショローザ」は南アの民謡だが、日本の民謡はなかなか難しい。
 五木の子守歌だと、

♪おど〜ま〜盆(ぼん)ぎり盆ぎり〜 盆から先ゃ、おらんと〜

 どうも陰気でいけない。
 明るければいいかというと、

♪ヤーレンソーラン、ソーランソーラン(ハイハイ)

 馬鹿である。

 かといって、中学校の合唱コンクールみたいな最近のポップスも底が浅い感じがして合わない。
 まあ、自然と誰もが歌い出すような歌がないということは、スポーツ大会で歌うような蓄積や歴史がないということなのだろう。