そこがいいんじゃない!

 天才バカボンバカボン・パパは母親の胎内から出たとき、七歩歩いて右手で天を指し、左手で地を指して「これでいいのだ!」と世界を全肯定したそうである――というのはおれがこしらえた作り話なのだが、ともあれ、「これでいいのだ!」は物事を肯定する最強の言葉だとおれは思ってきた。
 しかし、最近、匹敵する言葉を知った。みうらじゅんの「そこがいいんじゃない!」である。
 みうらじゅんは、ご存じの方も多いと思うが、カスハガ(土産物用のカスのような絵はがき)とかトンマツリ(とんまな祭り)とか、見ようによっては悲しくなるような物事を追いかけ、それについて記すことを生業にしている。本人がそれを心から楽しんでいるかというと、やはり、考え込んでしまうときもあるらしい。時には「こりゃいったい何なんだ」と否定的な心持ちになることもあるが、そういうとき、「そこがいいんじゃない!」とつぶやくんだそうだ。
 いい言葉である。ネガティブな心持ちになったときに使うとそのよさがわかる。例えば、自分のしょうもなさが嫌になったときとか、人間関係がうまくいかないときとか、こっぱずかしい思いをしたときとかに、心の中で唱えるのだ。「そこがいいんじゃない!」。人間の悲しいところ、安っぽいところ、しょうがないところ、業のようなところ、すべてひっくるめて肯定した気分になれる。人間が面白く愛おしく感じられる。何だかよくわからんが前向きな気分になれる。
 負けのなかに美を見出すというかな。いろいろ経験を積んで、ダメなもののなかに面白みを見出すわけで、そういう意味ではガキにはわかるまい。大人の言葉だ。