見下す人

 近所に中国風の麺類を食べさせる店がある。店の作りは中国の食堂を模していて、出てくる麺はラーメンとは少し違う太い麺である。味も大ざっぱといえば大ざっぱだし、鷹揚と言えば鷹揚な中国風である。

 先日その店に行った。店はそこそこ賑わっていた。接客の係は、中国人の三十歳くらいの働き者の女性で、いかにも中国の食堂にいそうなかわいらしい感じの人だった。
 食べていると、レジのあたりでその女性がしきりと謝っている。目をやると、六十代の女性がぼとぼとと文句をつけている。
「味が塩っからすぎるわ。主人も前にこの店に来て、塩っ辛いといって三年間来てなかったの。全然直ってないじゃないの」
 店の女性は「申し訳ありません、申し訳ありません」と謝っている。日本風のとにかくその場をおさめるやり方を学んだのだろうか。
 自分が塩っ辛いと感じたからといって、オーナーでもあるまいし、あんたの好き嫌いに合わせて直すも直さないもないだろうに、と思っていると、その婆さんは、
「いい? 日本人にはもっと塩気を抜かなきゃだめなの」
 とのたまった。ははあ、日本人虎の威ババアであったか。
 いかにも教えてやる、という態度である。しかし、虎の威ババアは、その店にいる大勢の(おそらくは日本人の)客をどう考えるのだろうか。日本人らしからず、塩っ辛い味を好む味覚の人々ということになるのだろうか。それとも全員三年ぶりに試しに来て、日本人には合わない塩っからさにうんざりしているとでも言うのだろうか。