自転車で走る東京

 晴れた日には会社まで自転車で行くことが多い。混んだ電車に乗るのと違って解放感があるし、帰りはよい切り替えになる。

 自転車は、昨年、京都に住んでいるときに馴染んだ。自転車に乗ると、京都に比べて東京が非常に坂の多い町であることがわかる。おれが走っているのは武蔵小山から六本木までである。落語の「目黒のさんま」ではお殿様が目黒に野駆けに出かけるが、なるほど、あのあたりはかなり険しい丘になっている。おそらくは緑の丘のすそに畑が段々となっていたのだろう。何せこちとら乗っているのはママチャリだから、ハアハアヒイヒイ言いながら坂をようよう登る。すると、今度は下り坂になる。「どうせ下るんなら、最初から平坦にしとけヨ」と思うんだが、まあ、これは視野狭窄的自己中心カワイイワネカワイイワネママガヤッテオクカラ調被過保護育児人間的な言い分であろう。何しろ、敵は何万年とかけて堆積造山浸食運動の果てに上り坂下り坂となっているわけで、塵芥のごとき人間のどうこう言えることではない。

 自転車に乗りながらの人間観察も、電車の中とはまた違ったふうで面白い。携帯電話を操りながら歩いている人が多いのは、ちょっと異様なふうに感じる。風景の広がった外を歩きながら携帯のちっこい画面にじっと見入りながら歩いている。自閉の集団みたいで、ハタから見ると変である。携帯電話を操りながら自転車に乗っている馬鹿もいるが(足腰の弱ったじいさんばあさんや乳母車に突っ込んでいく可能性を考えないのであろか?)、京都に比べると少ないようだ。これは、京都に比べてワカゾー(学生)の比率が低いからかもしれない。

 とんでもない自転車乗りもいて、車道を力いっぱい逆走する馬鹿も結構見かける。原付で逆走するやつはあまりいないが、自転車だと結構いる。おそらく、歩道の延長のような感覚で車道に出ているのだろう。車道を突っ走る自転車の正面衝突事故ともなれば、おそらくバイク並みのひどい事故になるはずで、頭の中のどこかが閉じているとしか思えない。

 ともあれ、自転車通勤はいい。胸いっぱいに吸い込むすがすがしい朝の東京の排気ガスは格別だ。