光悦寺

 土日に京都へ行ってきた。

 花見のシーズンから少しずれて、桜は葉桜となりかけているものが多かったが、それでも京都の町のそこここで桜を見られるのはうれしい。地震によるムードのせいか観光客はあまり多くなく、特に外国人観光客が少なかった。

 京都はどの季節もいいが、おれは春が一番好きだ。木の新芽や若い葉の色が目もあやで、美しい。

 左京区に住む妹の家から、鷹峯の光悦寺まで自転車で行ってきた。左京区は京都の東側、鷹峯は京都の北西だからそこそこ距離がある。光悦寺までは結構な坂道だ。東京に引っ越す際に妹に譲った中古のオンボロ自転車(ディープインパクト1号)でえっちらおっちら上るのはなかなか骨であった。

 光悦寺は、桃山〜江戸初期の芸術家の本阿弥光悦が、徳川家康から土地を拝領して作った当時の芸術村の名残である。ゆるやかな斜面に作られた苑内に茶室が散在している。ただし、一般の入園者は茶室の中までは入れない。

 京都自体の観光客が少ないせいか、光悦寺まで足を伸ばす人が少ないせいか、人はあまりいなかった。庭をそぞろ歩き、坂を下った端にある家屋の縁側にしばらく腰掛けていた。すぐ目の前に見事なお椀型の山がふたつ並び、かすかに沢の音が聞こえる。自転車の汗が涼しく変わる。時折どこからか聞こえる自動車の走行音まで風流に聞こえるのだから、人間の思い込みというのはオソロシイ。よい場所と時間で、こんなところで芸術三昧の日々を送った光悦ら一党は贅沢だな、と思った。寺を出るときには、とどめのように、少々時季外れのウグイスまで鳴いてくれた。