BGM病

 スーパーなんかに買い物に行くと、よく、というかほぼ必ず店内にBGMがかかっている。売れている歌をかけているところもあるし、有名な曲のインストゥルメンタル版をかけているところもある。たぶん、有線から選んでいるのだろう。

 あれらBGM、一度気になり出すと、何かこう癪に障ってくる。京都にいるときによく行っていたスーパーは女の恨み節の歌をヘビーローテーションでかけていて、これは一体何なのだろうかと思った。買い物に来る主婦層の心理に微妙に訴えるところがあるのだろうか。最近引っ越した先の近くのスーパーは、自分の好きなことを見つけろだのなんだのと説教くさい歌(歌っているのは若造っぽいけど)をよくかけている。おいおい、こっちはもう四十四歳、厄年過ぎてんだぜ。

 店でかけるBGMというのは音楽で理性を麻痺させて余計なものを買わせる作戦なのだという説がある。そういう効果を証明した実験があるのかどうかは知らないが、うなずける説である。もちろん、店内の雰囲気作りの役割というのもあるのだろう(女の恨み節や、若造の説教で作られる雰囲気というのも奇妙なものだが)。一方で、実は「BGMがないと間が保たないから」という理由もあるような気がする。たとえば、昔タバコを吸っていた頃は、ニコチンの中毒だけでなく、吸っていないと何となく間抜けな気分になるという理由でタバコをくわえていたように思う。あるいは、家に帰るととりあえずテレビのスイッチを入れるという人もいるが、あれもテレビが見たいというより、テレビの音がないと何となく間が保たなくなっているんじゃないかと思う。

 ある一定の刺激を与えられている状態に慣れると、その刺激がなくなったとき、何とも間の保たない宙ぶらりんな感覚になる。スーパーのBGMはそんな状態を防ぐ目的もあるのではないか。一定の刺激を常に受けていないと保たないという点で、現代病の一種のようにも思う。