一本ひげ

 毎日ひげを剃ってはいるのだが、電気カミソリでいい加減に剃っているものだから剃り残しがよくできる。

 特によく残るのは何と呼んでいいのかわからないが顎の両側の出っ張った部分で、ここは顔面、顎下、耳の下あたりのつながるところだから形状が三次元的で剃りにくい。触るとよくひげがじゃりじゃりしている。ましかし、手触りで時折確認して、気持ち悪かったら丹念に剃ることは剃る。

 意外とおろそかにしがちなのが、顎の下である。電気カミソリをざっと当ててよしとしてしまったり、剃ること自体を忘れてしまったりする。

 昨日、顎の下をふと触って、一本長いひげが残っていることに気がついた。ブチッと引き抜くと(イテテテ)、5cmほどもある。電気カミソリはヘッド部分の小さな網目にひげが入ってそれを刃でカットする構造になっているから、ひげがある程度の長さになると網目にひげが入らず、そり残すことになる。ある程度までの長さのひげは切られるけど、ある程度より長くなると残ってしまう。ひげの選別、エリートみたいなものである。

 ひげが5cmほどに伸びるには何ヶ月かかるのだろうか。その間、毎朝、電気カミソリから逃れ続けてここまで来たのに、残念な感じである。辛抱してようやく技術が身についた頃に仕事をやめてしまう職人さんみたいなものだ。まあ、何ヶ月もの間、そのひげに気づかなかったわたしの迂闊さもどうかと思うが。