経済危機の経済学

 バブル経済が崩壊して20年、その間、実にさまざまな経済危機の本が出版され、特集記事が組まれてきたと思う。非常に大ざっぱに分けると、政府の財政危機、金融危機、それから企業の経営危機、業界の構造危機の4つの話があって、本あるいは記事によっていろいろな組み合わせ、ストーリーがあるようだ。

 何をもって危機とするかは自分の関わっている組織や業界、あるいは個人的体験によってさまざまだろうけれども、日本の社会全体で見れば一番危機的状況に陥ったのは、北海道拓殖銀行山一証券長銀が倒れた1998年頃ではないかと思う。その他の時期でもさまざまな破綻や倒産、譲渡があったけれども、全体として日本経済は(表向きはかな?)それなりに保っているように見える。

 さまざまな経済危機説のどれが当たるのか、わたしなんぞにわかるわけがないが、経済危機説というのはやたらと飛び出すので、印象としては狼が来るぞ状態に陥っているようにも見える。まあ、実際に狼が来たときに本当かどうかわからないところがシロウトの悲しさではある。

 なぜに経済危機説がやたらと飛び出すかと言えば、もちろん実際にそうだから、というところもあるのだろうけれども、危機説がウケるからだろうと思う。ウケるという言い方はいささか冗談めくが、「あなたの口、実は臭ってます」という広告が耳目を集めるような具合でウケるのだろう。それはそうで、「日本経済はまあ、わりかし普通にそれなりに面白みもなく推移するでしょう」という本や記事よりは、「このままではヤバいです! 臭ってます!」という本や記事のほうが売れるのは間違いないだろう。日はまた昇る型の本や記事もまあまあ需要があるだろうけれども、やはりパンチがあるのは危機意識をあおるほうだと思う。書くほうとしても、売れる本や記事には食指が動きやすいだろう。しかも、「危機」とされる時期が過ぎてから検証されることはあまりないから、著者としては過去の尻ぬぐいをするより、次の危機のリクツに向かえる。経済はどうだか知らないが、エコノミストの人々は前向きでいられるのだ。

 まあ、しかし、危機説ばかりが続くとパンツのゴムが伸びきるようなことになるから、読者側にも適切な量というものがあるに違いない。経済危機説の限界効用について論じる本があったらなかなか面白いと思うのだが。

 最後に、経済予測のどれが正しいのかやらさっぱりわからない馬鹿の悔し紛れとして、「リクツはいろいろつけられるんだなー」という間抜けな感想を書いておきたい。