熊についてのもやもや

 熊があちこちの町におりてきて、騒ぎになっているらしい。射殺されることも多く、それに対してかわいそうだとか、人間のエゴが原因だとか熊側に立った意見も聞かれる。

 どうもこの手の話について考え出すと、もやもやしてしまう。

 まず熊は非常に危険な動物である。巨体で、その割に移動が早く、力が強く、鋭いツメを持っている。襲われたら重傷もしくは死も覚悟しなければならない。熊はクマのプーさんとは違う。クマの危険性と無縁のところで暮らしている人間があまり無責任に「自然に帰してあげて」とか「共生の方法を考えるべき」などと言ってはいけないと思う。共生できるならそれに越したことはないだろうし、熊の駆除をしている人だってそれをまず最初に考えるだろう。その試みがうまく行っていないから今のようなことになっているのだと思う。

「人間のエゴの犠牲だ」というのも、確かに熊側から見ればそうだろうが、どうも無責任な響きがある。なぜなら、そうしたさまざまな人間のエゴの恩恵を間接的に便益として受けて、今、我々は(「人間のエゴ」と口にする人も)安逸に暮らしているからだ。

 いや、おれも無関係な立場の人間なので、ますますいっそうもやもやしてしまうのだが。

 一点、熊を擬人化してあれこれ言うことには疑問を覚える。それは熊の熊性の否定であって、熊に失礼だと思う。まあ、考える対象について自分の身に置き換えて思考するというやり方はよく取られる方法だけれども、しかし、そうではない他者への理解の方法もあるように思うのだ。当たり前のことだが、熊は人間ではない。擬人化することと相手の存在を認めることはまた別の話だと思う。