イヤミ手法再びザンス

 一昨日、外来語を多用する文章に対するイヤミ手法を紹介したが、この手法、うさんくさい外来語をあぶり出すのに使えそうだ(イヤミとは、かの天才・赤塚不二夫のキャラクターざんす)。

 例えば、「Win-Winの関係」という言葉がある。直訳すれば「勝利-勝利の関係」で、企業やサービスの提携関係の交渉なんかでお互い得する話を持ちかけるときに使う。一時期、IT方面を中心に広告代理店っぽい企画書や文章でよく見かけた。最近はいささか廃れてきたかもしれない。中国商人の昔からの「あなたも得する。わたしも得する。ハッピー・ハッピー」みたいな話とどう違うのかおれにはよくわからないんだが、まあ、昔からよく知られていることを新しい術語で手を変え品を変えお見せする、というのはある種の業界の常套手段ではある。

 一種の無作為抽出のために、Googleで「Win-Winの関係」と検索してみよう。トップにはこういう文章が出てきた。

Win-Winの関係とは、あるサービスを提供する側とそのサービスを利用する側、またはあるサービスについて提携しあっているもの同士が、相互に利益を得、円満な関係で良い結果を得ることをいう。
“Win”とは、もちろん「勝つ」という意味である。IT事業における“勝ち組”というものを意識した言葉である。

 これをイヤミ化してみよう。やり方は簡単で、文の最後に「ザンス」を入れる。一人称は「ミー」に置き換える。文章の最後は「シェー」で終える。

Win-Winの関係とは、あるサービスを提供する側とそのサービスを利用する側、またはあるサービスについて提携しあっているもの同士が、相互に利益を得、円満な関係で良い結果を得ることをいうザンス。
“Win”とは、もちろん「勝つ」という意味であるザンス。IT事業における“勝ち組”というものを意識した言葉であるザンス。シェー!

 怪しい。おそらく、「Win-Winの関係」という言葉の潜在的に持つうさんくささをイヤミ手法があぶりだしているのだと思う。イヤミ手法は、うさんくささについてのリトマス試験紙の役割を果たすのだ。

 お次はロハスでやってみよう。やはりGoogleで検索してみよう

明確なロードマップがなく、かといって『昔の暮らし』や『貧乏な感じ』、『攻撃的な環境運動』もイヤだなと思っていて、一番オシャレな自分らしい生き方を考えるとLOHAS的な生き方になってしまう。そんな人たちが拡大しているというのが、ちょうど今なのです。

……

アメリカの雑誌「LOHAS Journal」では『今までマイナーと考えられてきた LOHAS スタイル は、今や主流である。』と表現しています。
調査によれば、米国成人人口の30%、約5000万人以上がLOHAS を重視する消費者であり、米国での市場規模は2268億ドル(約30兆円)全世界では5400億ドル余にのぼる、と発表しています。

明確なロードマップがなく、かといって『昔の暮らし』や『貧乏な感じ』、『攻撃的な環境運動』もイヤだなと思っていて、一番オシャレな自分らしい生き方を考えるとミーはLOHAS的な生き方になってしまうザンス。そんな人たちが拡大しているというのが、ちょうど今なのザンス。

……

アメリカの雑誌「LOHAS Journal」では『今までマイナーと考えられてきた LOHAS スタイル は、今や主流である。』と表現していますザンス。
調査によれば、米国成人人口の30%、約5000万人以上がLOHAS を重視する消費者であり、米国での市場規模は2268億ドル(約30兆円)全世界では5400億ドル余にのぼる、と発表していますザンス。シェー!

 ははは。うさんくさい。

 イヤミ手法を使えば何でもうさんくさく見えるんではないか? という疑問もあるかもしれない。そうではない。たとえば、「生物多様性」でやってみよう。

生物多様性 (せいぶつたようせい、英語 'biodiversity', 'biological diversity') とは、生態系・生物群系または地球全体に、多様な生物が存在していることを指すザンス。

生物多様性の定義には様々なものがあるが、生物の多様性に関する条約では「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わないザンス。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む」[1]と定義されているザンス。シェー!

Win-Winの関係」や「ロハス」に比べると、パンチ力に欠ける。イヤミ手法が効果を発揮するには、

・外来語である
・言っている内容はともかく言葉の使い方がうすっぺらい

という2つの条件を満たす必要があるように思う(両者は別の話だが、親和性がある)。

 最後はブルー・オーシャンとレッド・オーシャン。

ミーは市場全体を説明するのに赤と青という色を使いますザンス。レッド・オーシャンとは今日の産業すべてを表しますザンス−つまり、既知の市場空間のことを言いますザンス。レッド・オーシャンでは各産業の境界はすでに引かれていて、誰もがそれを受け入れていますザンス。競争のルールも広く知られていますザンス。各社ともライバルをしのいで既存のマーケットの中で多くを奪い取ろうとしていますが、競争相手が増えるにつれて、利益や成長の見通しは厳しくなっていくわけザンス。製品のコモディティ化が進み、競争が激しくなっていくために、レッド・オーシャンは赤く血に染まっていくのザンス。というわけで、「レッド・オーシャン」という表現を使っているのザンス。
対照的に、ブルー・オーシャンとは今はまだ存在していない市場−つまり、競争すら存在しない未知の市場空間のことを指していますザンス。ブルー・オーシャンでは企業は新たに需要を掘り起こそうとするため、利益の伸びも大きく、また、スピードも速いのザンス。ブルー・オーシャンでは競争は成り立ちません、なぜならルールも決まってないからザンス。ブルー・オーシャンという表現は未だ誰も足を踏み入れたことのない、より広い、より深い可能性を秘めた市場を指していますザンス。利益の成長、無限の可能性という意味で広大で深く力強い自然の「青い」海のようであるという表現ザンス。シェー!

 よく知らないが、企画書なんかでインチキくさい使われ方のされそうな言葉である。赤い海、青い海でいいじゃん、と思うのだが、そこはそれ、黒船以来の目新しさっぽさ、目を引く効果というのもあるのだろう。ヴェイキャントざんすけどね。