おれの書の楽しみかた

 日本の美術はわりに好きで、気が向いたら見にいく。絵、陶器を見ることが多い。

 書については、昔は「どうせおれには読めんし」とハナっから敬遠していた。しかし、楽しみかたを教わってから、ものによっては、よいなあと思えるようになってきた。

 その楽しみかたというのは簡単で、書をただ目でなぞるというものだ。指で補助的に宙をなぞるのもいい。なぞっていくと、書いた人がぐっと力をいれたところ、力をぬいたところ、スピードをはやめたところ、スピードをゆるめたところ、墨がたりなくなってきたところ、かすれたところ、あわてたところなんかがわかる。そうしたつながりが音楽のリズム、メロディに似た快感をあたえてくれる。

「音楽のリズム、メロディに似た快感」と書いたけれども、実際、書と音楽は似ている。たとえば、下記は小野道風の「玉泉帖」だが、

 三行目後半から四行目前半にかけては、音楽でいう「サビ」にあたる。

 最初から順になぞっていくと、このサビのところで急にぐわんと調子が変わる。道風さんは、かなり盛大に歌っている。節まわしもよくて、下記の螺旋状のところなんかは(実際に目で動きをなぞってみていただきたい)、実にたまらん感じである。エロティックですらある。

 平安時代の宮中の女官なんかはこの部分を見て、「ああん、道風さまぁ」などと悶えていたんではなかろうか。知らんけど。


女官のアイドル、道風さま