学生服存続の不思議

 終戦直後のGHQによる文化統制というのはなかなか強力なものだったらしい。

 刃傷沙汰を恐れてチャンバラ映画を禁止、皇国・忠孝思想を伝えるというので歌舞伎の演目からも時代物の多くを制限(四十七士の討ち入りなんてのは困るんでしょう、向こうとしては)、柔道・剣道といった武道も禁止、文化政策というのとはちょっと違うかもしれないが、軍国主義的部分を墨で塗りつぶした教科書の写真を見たことのある人も多いと思う。

 彼らは戦中の軍事色を性急に脱色しようと目論んだようだ。しかし、いつも不思議に思うのだが、なぜ学校の制服をそのまま残したのだろうか。たとえば、中高男子学生の詰襟服というのはあきらかに軍服だし(カーキ色に染めればそのまま日本陸軍の服となる)、セーラー服も水兵服だ(ただし、水兵服を直接女子学生の制服にしたわけではなく、欧米の女性ファッションだったものを導入したらしい)。小学生のランドセルだって歩兵の行軍用の背嚢である。

 軍国主義色を拭い去ろうというのなら、GHQはああいう制度こそ真っ先に禁止しそうなものだが、ハテどういうことなのだろう。

 制服だけでなく、小学校の遠足も元々は行軍の訓練が目的だったろうし、運動会の入場行進で手足をピンと伸ばして歩かせるなんていうのも軍隊行進が原型だと思う(北朝鮮の軍事パレードを思い起こしていただきたい)。学校の制度や行事には軍事を原型とするものは結構多い。

 いや、別に制服やランドセル、遠足に反対しているわけではない(行進的なものは嫌いだけど)。ああいうものが残った、GHQが見逃したというのが不思議だなあ、と思っただけである。