オリンピックとスポーツのカルチャー

 少し前、バンクーバー・オリンピックの国母選手の服装問題というのが騒ぎになった。バンクーバーに着いたとき、選手団の制服のシャツを出し、パンツ(わたしはズボンと呼びたいが・・・)をずり下げ、ネクタイを緩めていてだらしなかった、という、まあ、それだけといえばそれだけの話なのだが、協会方面に抗議の電話は殺到するわ、協会の偉い人は怒り狂うわ、記者会見での国母選手の態度がふてぶてしいと火に油を注ぐわ、入村式と開会式は欠席させられるわ、所属する大学の監督が謝罪のため現地入りするわ、アレヨアレヨと大騒ぎとなってしまったのであった。

 yagianも書いているが、そもそもオリンピックのカルチャーとスノーボードのカルチャー(アルペン系を除く)は合わないと思う。生まれ育った土壌と追求しているものが全然違う。

→ id:yagian:20100216

 たとえて言うならこういうことではないか。

 伝統を誇るウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がちょっとばかりマンネリに悩み、季節的な観客動員の少なさもカバーしたく、新鮮な企画を求めた。若者の古典音楽離れも気になるところだし、音楽全体がポップカルチャーにのされつつある危機感もないではない。そこで世間の目を向けさせようと「ロックとの競演!」を謳い、ロックスターを招いて何か一緒にやることにした。でもって、ウィーンフィルの本拠、ウィーン楽友協会の舞台にロックスターがあがると、これが穴だらけのジーンズに無精ひげ、髪はボサボサ。おいおい、と注意すると、「反省してまーす」とピースサインしやがった。伝統と格式あるウィーン楽友協会において何とまあ破廉恥な、と、楽団員より前に観客が怒り出した。

 とまあ、そういうことのように思う(実際には、国母選手はステージにあがるどころか、楽屋入りの時点でブーイングを浴びてしまったわけだが)。

 おそらく、オリンピック側は、夏に比べて今いち地味な冬のオリンピックを華々しくしたいと、アメリカを中心とするX-GAMES系のスポーツを導入したのだろう。発想が安直すぎる。クーベルタン男爵を象徴とする貴族的な近代オリンピックの文化と、ポップなX-GAMES系のスノーボードの文化は、今後も混じりあうことがないと思う。わたしの知る限り、「ロックとクラシックの競演!」を銘打って音楽的に成功した試みはない。