煙草と梅毒の運命

 煙草は元々アメリカの原産で、15世紀末から16世紀の大航海時代にヨーロッパを経て、世界中に広まったそうだ。ヨーロッパ人で最初に煙草と接したのはコロンブス(1492年にアメリカに到達)の一党だが、ヨーロッパに運んだのはもう少し後の人らしい。16世紀後半の安土桃山時代には日本にももたらされたというから、世界をほぼ一周するのに7、80年というところだろうか。何しろ、長距離移動するには帆船かもしくはロバでも引いててくてく歩け、という時代だから、随分と早い。

 しかし、もっと早く広まったものもある。梅毒だ。こちらはコロンブスの一党がアメリカからヨーロッパへと運び、1510年代には日本に発症の記録があるという。ヨーロッパへ伝搬してからわずか20年。まあ、ああいうことに関する国際ネットワークというのは広くて、特に船乗りと女達のネットワークは相当なものなのだろう。

 煙草のほうは何しろ物がなければならず、栽培・生産がそれなりに広がらなければ流通できない。一方で、梅毒を伝える行為については、需要と供給、あとは多少のお金か無償の愛があればよいのだから、梅毒の伝搬のほうが早かったのも当然かもしれない。

 アメリカ原産で、帆船に乗って世界中に蔓延し、現代に入って先進国では駆逐されつつあるのだから、煙草と梅毒はよく似た運命をたどっている。