昨日、時代劇のお定まりについて書いた。言うまでもなく時代劇はひとつのファンタジー世界であり、その世界の中だけで成立する約束事がある。で、ふと思ったのだが、時代劇を現代劇に置き換えるとどういうことになるだろうか。
時代劇の多くは捕物帖であり、現代でいえば刑事ドラマに当たるだろう。同心は、現代なら刑事である。
物語はこんなふうに始まる――。
ひょっこり左門刑事が家の縁側で寝っ転がっていると、密告屋の八五郎が飛び込んできた。
「大変だ、大変だ」
早くもこの段階で無理が生じる。密告屋(時代劇なら岡っ引き)が刑事の家に飛び込んでくる、なんて刑事ドラマとして不自然だ。しかし、刑事の手先といえば、密告屋くらいしか思いつかない。
「大変だ、大変だ」は「てえへんだ、てえへんだ」としたいところだが、下町言葉はもはや絶滅しかかっているので、残念ながら平たい言い回しにせざるを得ない。
「どうした、ハチ」
「日暮里駅で飛込み自殺です」
これも厳しい。時代劇なら大川で土左衛門があがった、としたいところなのだが、今の時代、川に飛び込む人はあまりいないだろう。
でもって、ひょっこり左門刑事が現場に出かける。時代劇なら、ムシロをひょいとあげてホトケを確認するところだが、現代劇だと凄惨である。
現場には、同僚の山田刑事が先に着いていた。
「おう、左門」
「ちょっとホトケを拝ませてもらうぜ」
左門刑事がビニールシートを持ち上げると、そこには時速80km/hの電車に轢かれた男の
ううむ。きちんと描写する勇気がない。
「どうしましたかの」
左門刑事がつと目をあげると、そこには老人を先頭とする一行。若い屈強な社員が2名に、ちんちくりんの愛嬌ある社員が1名。
「そちらはどなたで」
「いや、縮緬卸売りECHIGOYAの相談役ですわい」
なるべく忠実に現代に置き換えようとしているのだが、置き換えようとすればするほど無理が出る。まあ、本当は、商家の隠居と称してふらふらほっつき歩き、あちこち首を突っ込むあの御仁に無理があるのだが。
突然現場検証の場に顔を出してきた相談役一行を無視して、左門刑事は山田刑事に訊ねる。
「ホトケの身元はわかったか」
「持っていた名刺からすると、伊勢商事の社員らしい」
「なに? 伊勢商事というと、あの贈賄事件の」
「ああ。会長の鈴木玄蕃が捕まったが、結局、裁判では無罪となった」
セリフが説明的だなあ。ご勘弁。
それを聞いたECHIGOYAの相談役が鋭い声を発した。
「お銀子!」
「は」
いつの間にか相談役の後ろに由美かおる似のOLが控えている。
「伊勢商事を探りなさい」
「はい」
「でも、その前に一応、風呂に入っておきなさい」
「はい」(入浴シーン)
めちゃめちゃだ。続きはまた今度書く――かもしれない。