時代劇のお約束

 最近、民放ではあまり時代劇が流行らないようだが、わたしがガキの時分には随分とあったように記憶している。時代劇ファンというほどではなかったが、結構覚えている番組もあるので、割によく見ていたのだろう。

 当時の時代劇というのはお約束のオンパレードで、もちろん、最後に大立ち回りをやって悪人を懲らしめるというのがお約束の第一だが、もっと細かい部分にもたくさんあったと思う。

 メジャーなところでは、悪徳商人が悪代官や悪勘定奉行(時代劇の歴史の中で、勘定奉行が善玉に描かれた例はあるのだろうか?)のところに賄賂を持っていくとき、菓子を装う、というのがある。「菓子は菓子でも山吹色の菓子でございます」などと言ってすっと渡し、その後、お定まりのやりとりが続く。今、こうやって記憶でセリフを書いてもベタベタで心苦しくなってくる。脚本家は嫌気がささなかったのだろうか。それとも自己パロディの感覚だったのか、仕事と割り切っていたのか。

 あるいは、お殿様からの密命を受けた腰元やくのいちが捕まると、「ふふふ」などという悪玉のいやらしい笑いを見て、くっと舌を噛み切ることになっていた。あれ、本当はなかなか死ねないのだそうだ。というのは、きれいに舌が丸かって喉をふさいでくれればいいのだが、そうなる確率は低い。どこかから息が通じてしまい、ただただ苦しいだけになるらしい。息は苦しいわ、痛いわ、血がドバドバ出てくるわ、おまけに悪玉が「どれ、体に聞いてみるかのう」と迫ってきて(以下、略)、まあ、よしといたほうがいい、というのが結論のようである。

 あまり実際に見た記憶がないのだが、悪役の、特に偉いやつが捕まえた女とふたりっきりになって、帯を捕まえくるくるくる、「あーれー」なんていうのも、なぜかお約束シーンとして頭にある。あれ、いったんほどけた後で、自分からくるくるくる、と巻き戻っていったらどうなるのだろう。洒落のわかる悪役なら、再びほどいてくるくるくる、「あーれー」、また巻き戻ってくるくるくる、繰り返しているうちに仲良くなれて、それはそれで新しい人生が始まるのであった。