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“紀子さん、パン食べない?
アンパン”
小津安二郎監督の映画「麦秋」の中から、杉村春子のセリフである。笑った。そして泣いた。
ざっとだけ言うと、ドラマが急展開する重要なシーンの最後に、杉村春子が口にするセリフだ。いきなりで、素っ頓狂で、でもこういうことを言い出す心理もわかる気がする。そんなこんなで、笑った。そして泣いた。脚本も、演出も、杉村春子の演技も素晴らしい。
読んでくださっている方を置いてけぼりで書いているが、お許しいただきたい。あらすじを含めてくだくだしく説明しても、伝わらないし、野暮な気がするのよね。
杉村春子は「麦秋」の主人公ではない。出演時間は短い。しかし、「麦秋」はほとんど杉村春子の映画と言ってもよいくらい、強い印象を残す。
役どころは主人公一家の近所に住むおばさんで、基本的に善人だが、おしゃべりでアクがある。“いるよなあ、こういうおばさん”と感じさせる。何というか、おばさんのおばさん的なところ、おばさんの本質、ザッツおばさんみたいなものを見事に描き出す。そうして、見ているこちら側はおばさんの心理のひだひだに付き合い、笑わされ、ほだされ、おばさんが愛しくさえ思えてくる。大げさに言えば、人は面白いなあ、愛しいなあと、人間愛を呼び起こされるのだ。あ、いや、やっぱり大げさだが。