ズボン

 ズボンのことをどう呼ぶか、というのは、わたしくらいの年代だとなかなかに難しい問題である。

 ガキの時分、ズボンはズボンであった。20代前半くらいまでズボンで何も問題なかた。世界は平穏であった。

 ところが、いつの頃からかパンツという呼び方がのしてきた。ズボンのことをパンツだと言う。じゃあ、パンツのことは何なのだ? と問うと、やっぱりパンツだと言う。不便ではないか、と問いつめると、別に問題ないと言う。いざとなれば、ブリーフだのトランクスだのと言えばよいらしい。確かに、問題ない。

 ズボンという言い方が流行らない理由はわかる。なんせ、“ズボン”だ。足を通すとき、ずぼん、と音を立てるようで、間抜けである。

 しかしどうも今さらパンツ派に乗り替える決心もつかない。パンツ、と口にするとき、どうしてもまず下着のほうが頭に浮かぶ。「パンツを脱いだ」というと、これは最後の一線を越えました、という意味であって、やはり物事の手順なりクライマックスなりに関わることだと思うのである。

 それに、ズボンのことをパンツと呼ぶと、何だか若ぶっているようで、あるいは若いやつらに迎合しているようで、ひっかかるのだ。

 ならばズボンで通せばいいのだが、やはりダサい。なんせ、“ズボン”だ。ハンガーをエモンカケと呼ぶような垢抜けなさがある。

 そんなこんなで、揺れ動く男心。ズボンか、パンツか。