豹変

 わたしの好きな言葉に「豹変」というのがある。面妖な言葉だ。見るとつい笑ってしまう。


 ジャズ・ピアニストの山下洋輔は、エッセイで以前よく「ジャガーチェンジ」という言葉を使っていた。


 ドイツ青年の優雅な青眼が一瞬グニャグニャに崩れた。それから、最悪の事態を理解したらしく今度はそれがみるみるうちに不気味なヘビ眼へとジャガーチェンジ(豹変)した。


(「ピアニストを二度笑え!」より)


 などというふうに使う。言葉に対する天才的な感覚を持った人だと思う。


 広辞苑で「豹変」を引くと、こうあった。


ひょう-へんヘウ‥【豹変】[易経革卦「君子豹変、小人革面」](豹の毛が抜け変って、その斑文が鮮やかになることから)君子が過ちを改めると面目を一新すること。今は、悪い方に変るのをいうことが多い。→君子は豹変す


「豹変」は「豹のように変わる」ということであって、「豹に変わる」ということではないらしい。残念だ。


 ま、しかし、言葉を遊びの道具として使うなら、やはり、「豹に変わる」と捉えたほうがはるかに面白い。なんせ、君子が豹変す、というのだから。


 これは「虎変」でも「獅子変」でも「象変」でもダメで、「豹」といういささか意表をつく動物が登場するから素敵なのだろう。


 豹変。


 言葉の奇跡的な合体だと思う。



「三分前に豹変しました」


ピアニストを二度笑え! (新潮文庫)

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