襲名

 昨日に続いて、襲名の話。といっても、内容は続いていない。


 襲名が日本独特の行為なのかどうか知らないが、あまり他の国の話として聞いた覚えがない。
 フランスで、ルイ何世、なんていう王様が続いた時代があるようだけれども、あれも襲名という感覚だったのだろうか。


 日本の襲名には、名前を継ぐと同時に、社会的なポジションを受け継ぐという意味合いがあるようだ。


 例えば、歌舞伎における団十郎の名前は、役者の名前であるとともに、江戸〜東京歌舞伎界の中心的存在、という意味も持っている。


 なに、そんな耳目を集める名前の場合ばかりではない。江戸時代には庄屋や大商家の当主の名も代々、受け継いだようである。
 名前は、個人を特定する記号であると同時に、社会的なポジションを示す記号でもあったのだろう。


 前にも書いたことがあるが、であるならば、現代において、もっと広く襲名の制度を復活させるとどうなるだろう。


 例えば、神奈川県庁県土整備部河川課課長代理は代々、松田世之介を名乗ることにする。株式会社ヤマタネ電線事業部第二工場管理部長は代々、島本権十郎を名乗ることにする、とか。


 そうして、着任する際は、ありきたりの挨拶などせず、関係各部署の代表を並べて、襲名口上を述べるのだ。


「この度、七代目島本権十郎を襲名することと相成りました山川太一でございます。先代のことは直接には存じませぬが、そのTQC展開の手腕を買われて、福島の第三工場に栄転されたとの由。また、代々の島本権十郎はそれぞれ立派な工場管理をなされ、この第二工場を、我が社でも一、二を争う清潔で生産効率の高い工場に導いたと承っております。わたくし、若輩ではございますが、島本権十郎の名前を汚さぬよう精進し、精一杯職務を相務める所存にございます。皆々様のご指導ご鞭撻を賜りますよう、ひとえに、御願い申し上げ奉りまする〜」


「ひとえに」のところでは、総務課の若手社員あたりに、いいタイミングでチョンと柝を打たせたい。


 なぜに名前を受け継がせるかというと、二つの意味がある。
 その仕事を切り開き、守り育ててきた代々の先任者の仕事を顕彰すること、そしてその仕事に就くにあたって新たな自覚を促し、職員としてのさらなる成長を期することである――というのは嘘で、単にバカバカしくて素敵だからである。


 襲名について、わたしはもうひとつ腹案を持っている。政治家に襲名させるのである。


 例えば、小泉純一郎氏の息子が次の衆院選に出馬すると聞いている。あれを、「小泉進次郎」ではなく、「二代目小泉純一郎」として出馬させる。


 まあ、当代の純一郎氏自身が三世議員であるから、正式には信次郎氏は「四代目小泉又次郎」と名乗るべきなのだが。


 同じ伝でいえば、福田康夫氏は「二代目福田赳夫」、安部晋三氏は「三代目安部寛」である。もっとも、晋三氏は母方の祖父への憧憬が深いようであるから、「二代目岸信介」を名乗ってもよいかもしれない。


 有権者には、その政治家のよって立つところがわかりやすく、便利だと思う。


 なお、わたしは、あの卑屈でイヤラしい、政治風刺なるものをやりたいわけではない。単に、面白いから書いただけである。