小林秀雄の講演


 小林秀雄が晩年に行った講演のCD。


 小林秀雄の講演は面白い、と前々から聞いていたのだが、初めて聞いた。
 確かに、面白い。面白い、と言うのには随分と品の下った部分もあって、解説にも書いてあるが、語り口調が古今亭志ん生によく似ているのである。


 古今亭志ん生の、特に脳溢血で倒れた後。
 ロレツのうまくまわらない(小林秀雄は脳溢血はやっていないと思うが)、ふわふわした口調。しゃべり方もだが、声の質自体が似ているように思う。


 小林秀雄は東京の下町生まれで、演芸好きだったらしい。そのせいもあるのだろうか。講演用に志ん生の口調を研究した、という話も聞いたことがあるが、本当かどうかはわからない。


 小林秀雄、というと、何となくとっつきにくい印象がある。「逃げる、ごまかす、やり過ごす」を人生の三大方針としているわたしなぞは、つい敬遠してしまうのだが、講演は志ん生口調のおかげもあって、入りやすい。でもって、聞いているうちに引き込まれていく。


 内容は、ユリ・ゲラーの話から始まって、科学という方法論の限度、物事を捉えるやり方、魂の実在、柳田国男、人間の感受性、人と人/対象との交わり、個人と徒党、と、こうやって文字でまとめるとビビってしまうが、平易にわかりやすく話している。あちこちで感銘を受けた。


 じゃあ、その感銘をきちんと消化できたか、全てを理解できたか、というと、これが情けないことに、そうはいかなかった。あちこちの話を、断片的に受け取るばかりである。
 聞く側(おれ)の器が小さすぎ、おまけにひびで漏るもんだからしょうがない。


 ともあれ、「話し口調が志ん生だ」という程度の興味でも、十分に聞く価値があると思う。