洋楽歌詞ヲ漢文訓読調ニテ翻訳ス事(ソノ二)

 前にやった、英語の歌詞を漢文の読み下し文風に訳す、というのにまたトライしてみたい(id:yinamoto:20080829)。


 ――などといきなり言い出されても、何のこっちゃ、さっぱりわからない人も多いだろう。論より証拠、まずはひとつ。
 エルヴィス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」を漢文風に訳してみる。


 こういう曲ですね(エルヴィスのステップ、イカすねえ)。



汝猟犬ニ相違ナシ
旦夕ニ咆哮ス
汝猟犬ニ相違ナシ
旦夕ニ咆哮ス
而ルニ兎ヲ獲ウル能ワズ
我ノ朋ニ非ズ


士大夫ノ出ト聞ク
虚言ナルベシ
士大夫ノ出ト聞ク
虚言ナルベシ
而ルニ兎ヲ獲ウル能ワズ
我ノ朋ニ非ズ


 馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、ご先祖様達は、実はこれと同じような作業(漢文の日本語化)を、奈良・平安の頃からずっとやってきたのだ。
 違いといえば、ご先祖様達が中国語→日本語と変換したところを、わたしは英語→日本語と変換したことだけである。


 もう少し言うと、我々(漢文を日本語読みはできるけれども、中国語読みはできない人々、という意味)は漢文を読むと、格調高い堅苦しさ、とでも言うべきものを感じ、思わず恐れ入ってしまう。そういう言葉の感覚は、実は中国にはない、日本オリジナルのものでないかと思う。
 中国の人が中国語で漢詩を、「クォプォシャンフーツァイ」などと読むのとは全然違う感覚で、我々は漢詩を読んでいる


→ 参考:「春望」 杜甫(中国語読みを聞けます)


 お次は、ローリング・ストーンズの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」。



 60年代終わりくらいのムービーだろうか。今、見ると、チャーリー・ワッツのメイキャップに笑ってしまう。


 訳。


我ハ嵐ノ中ニ生マレタリ
悽愴タル雨、我母ニ泣キ叫ビタリ


而ウシテ今ヤ欣快、笑止ナリ
而ウシテ欣快、我ハ操人形閃光小僧
好、好、好


我ハ歯ノ欠ケタル髭ノ老婆ニ育テラレタリ
背中ヲ鞭打タレテ育テラレタリ


而ウシテ今ヤ欣快、笑止ナリ
而ウシテ欣快、我ハ操人形閃光小僧
好、好、好


「好、好、好」は「ハオ、ハオ、ハオ」と読んでください。
 漢文訓読調にしても、ストーンズストーンズっぽい。


 最後は、ルイ・アームストロングの「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。



 何だかしみじみしてしまいましたが。


樹木ノ緑見ユ
赤キ薔薇モ亦
我ト汝ノ為ニ咲クト見ユ
我独リ黙考ス
無上ノ世界哉


蒼天ニ白雲見ユ
明澄ニシテ祝サレシ昼
漆黒ニシテ聖ナル夜
我独リ黙考ス
無上ノ世界哉


虹ノ色空ニ可憐ナリ
行キ過グル民ノ顔亦然リ
手ヲ握ル朋ハ礼ヲ為シ
衷心ヨリ仁愛ヲ語ル


嬰児ノ泣叫聞コユ
其ノ育チユクヲ見ユ
童子我ノ知リ得ヌ事ヲ学ブベシ
我独リ黙考ス
無上ノ世界哉


 原曲がよいと、訳がメタメタでもそれなりに見えるようだ。無上ノ世界哉。