「Mr. Bojangles」という歌があって、わたしはニーナ・シモンの歌で知っていた。
歌詞をあまりよく理解せずに聞いていたのだが(英語のヒヤリング能力が低いのだ)、調べてみると、これがいい歌詞なのである。
昔、落ち目の頃、ニュー・オリンズの牢屋で、ボージャングルという旅回りの老芸人に会ったことがある。
ボージャングルさんは踊り、大笑いし、まわりの人間を笑わせ、これまでの人生について話してくれた。
とまあ、かいつまんで言えば、それだけの歌詞なのだが、歌として聞くと、実にいい。
ニーナ・シモンの「Mr. Bojangles」がYouTubeにあった。
人と人のつながりを歌って、美しい。そして、ちょっと哀しい。
“He jumped so high”(彼はとても高く跳んだんだ!)、“Mr. Bojangles, dance.”(ボージャングルさん、踊ってよ)というところが特に好きだ。
歌詞と訳詞を載せているサイトがあった。訳がこなれていて、上手いと思う。
→ Mr. Bojangles / Jerry Jeff Walker
毎度書くけれども、歌詞というのは難しい言葉を使ったり、ややこしいことを言ったりすれば偉いわけではない(ハイデッカーを歌にして聞きたいという人はあまりいないだろう)。
平易な言葉で、平易な文で、いい歌詞が書けるなら、それが一番のように思う。
「Mr. Bojangles」は、まさにそういう歌だと思う。
サミー・デイヴィスJr.も歌っている。
こちらのムービーには、日本語対訳がついている。
サミー・デイヴィスJr.はなんせ達者な芸人だから、歌の中のボージャングルさんと重なってくる。
ニーナ・シモンとサミー・デイヴィスJr.のバージョンの、どちらが好きかと訊かれれば、サミー・デイヴィスJr.のも悪くはない。
しかし、わたし自身は「お願いだから、もう一度、踊ってよ!」と思い入れたっぷりに歌い上げるサミー・デイヴィスJr.より、あっさり“dance.”と言葉を置くだけのニーナ・シモンのほうが、むしろ、じんと来る。
まあ、ここいらは好みである。
原曲はJerry Jeff Walkerというカントリーの人らしい。わたしは知らない人だ。
この人のムービーもあった。
んんん……。
まあ、歌というのは、演奏やアレンジ、歌いこなしによって、随分、印象が変わるものではある。
ともあれ――。
ボージャングルさんは、とても高く跳んだんだ!
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
「今日の嘘八百」
嘘六百八十七 今でも、ニュー・オリンズで捕まると、牢屋でボージャングルさんに会えるそうです。