芸術について

「芸術」という言葉について考えると、頭の中が曖昧模糊として、わけがわからなくなる。悪い癖で、わけがわからなくなると、否定してしまいたくなる。
 蹴落として、己を守ろうとするのだろう。頭が悪いのだ。勘弁していただきたい。


「芸術」という言葉を否定するのも、蹴落とすのも簡単なのだが、ちょっとこらえて、考えてみようかと思う。ここらでケリをつけたい、という気持ちもあるのだ。


「芸術を否定してしまいたくなる」といっても、芸術に属するとされる個々のものを否定したいわけではない。
 何というか、芸術というおおざっぱなくくりをすることに、どれほどの意味があるのか、と思うのだ。


 えーと、もう少し、丁寧にやったほうがいいですね。


「芸術」には、大きく分けて、2つの用法があるように思う。


 ひとつは、割に明快にジャンルをくぎって、これは芸術とする、そっちは違うことにする、とやる方法で、ある意味、学校教育的な用法だ。


 例えば、絵画や音楽は芸術だが、手品は芸術ではない、とする(カドが立つので、教育関係者はあからさまにそんなこと言わないけど)。
 さらに、同じ音楽の中でも、ジャンルとして、クラシックは芸術だが、都々逸は芸術でない、と何となく了解される。


 まあ、そういうのはあずかり知らぬところなので、文部科学省あたりで勝手にやっててくらはい、と思う。


 もうひとつは、個々の事例を取り上げて、あれは芸術だ、これは芸術ではない、とする用法。


 例えば、都々逸も柳家三亀松くらいまで行くと芸術だが、わたしがベートーベンの「月光」を弾いても芸術ではない、とする(別に不服はない)。


 もう少し敷衍すると、「イチローのバッティングは芸術だよ」なんていう言い方も出てくる。


 ややこしいのは、1つめのジャンル分けする「芸術」と、2つめの個々の内容を見る「芸術」がごっちゃにされがちなことだ。


 大衆芸能とされるものは、どこか見下されている悔しさがあるのか、1つめのジャンル分けとしての「芸術」を目指す傾きがあるように思う。


 例えば、歌舞伎、落語はおそらく、戦前、あるいは戦後もしばらくまでは、ジャンルとして芸術に属していなかっただろう。しかし、歌舞伎、落語の世界にいる人は、そのことで、内容や己まで見下されているように感じてしまった。
 そのコンプレックスが「落語芸術協会」なんていう名称に表れているように思う。


 でまあ、イヤな言葉だが、ジョーショー志向で芸術の仲間入りを目指すと、しばしば何だかつまんないものになってしまって、イヤハヤである。
 わたしの持論なのだが(3分前に持論にした)、NHK教育でアナウンサーと評論家にいかに素晴らしいものか語られるようになったとき、そのジャンルは何かを捨てさせられる、と思う。


 話がどんどんズレている。申し訳ない。元に戻します。


「芸術」という言葉を使うことに、どれほどの意味があるのか、よくわからない。わたしからすると、「文化」という言葉と同じくらい大ざっぱな捉え方で、話がしばしば雑になってしまうように思う(例えば、今、書いているこの文章のように、だ)。


 ひとつ考えられるとしたら、「芸術」という札を貼ることで、価値を宣伝する、という効用はあるかもしれない。茶碗に高い値段がつくと、人はその良さを知りたくなる。


 芋畑の看板みたいなものですね。「ここ掘ると芋が出るよ。1時間3000円」というのと同じだ。


 まあ、「ここにあるものは素晴らしいものだよ。今すぐそのよさはわからないかもしれないけど」と看板を立てることには、それなりに意味があると思う。


 しかし、逆に「芸術」という看板が立っているからといって、自動的に素晴らしいものと受け止めるのはくだらない。
 ついでに言えば、社会的ステータスは別として、価値の点で、あるジャンルが上で、あるジャンルが下、なんてことはないだろう。


 オペラがアンダマン諸島の原住民の踊りより上、なんてことはない。そのときその場の、己の個別の判断があるのみだ。


 リクツっぽいですね。あたしも自分で嫌気がさしてきた。


 わたしは、価値判断については割にシンプルに考えていて、何かを見聞きするとき、「素晴らしい/いい/まあまあ/悪い/酷え」の5段階評価と「わからない」の合計6つの判断で、おおよその用は足りると考えている。


「わからない」ものがやがて「わかる」ようになるときも来るかもしれない。そのとき、「素晴らしい/いい/まあまあ/悪い/酷え」の5段階評価を下せばよい。


 えーと、個人的なジャンルの好き嫌い、というのはまたちょっと別の話よ。おれはアニメが嫌いだ。これは価値判断の問題ではない。生理的な問題だ。

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「今日の嘘八百」


嘘六百八十 偉そうなことを書いて、スミマセンでした。