夕方、ちょっと時間があるので蕎麦屋に入って一杯やる、というはなかなか気分のいいものだ。
昨日も、30分ばかり時間があったので、目にとまった蕎麦屋に入った。
妙におどおどした若い店員が、席に案内するなり、「お飲み物は何になさいますか?」と訊く。
こっちはコートを脱ごうとしているところだから、いきなりそんなことを訊かれても困る。
「あー、ちょっと待ってね」
と言ったら、おばさん2人連れの席に行ってしまった。そこでとっつかまって、どれが早くできるの、この料理はどういうものかだの、質問攻めに合っている。
かえって手持ちぶさたでいたら、主人が注文を訊きに出てきてくれた。主人といっても若いようで、30歳くらいか。ちょっと乱暴そうで、木村祐一に似ている。
こぎれいだが、どうも全体にちぐはぐな店のようである。
日本酒でちびちびやっていたら、5分ほど経ってからお通しが出てきた。
日本酒が自慢の店らしく、メニューにはいろいろと能書きが書いてある。その割には、出てきたお通しがマカロニのマヨネーズ和えなのはどういうことなのか、よくわからなかった。
途中から、さっきの若い店員とは別に、おばさんが出てきた。主人への言葉遣いからして、母親だろうか。
サラリーマン3人組が入ってきた。おばさんは4人掛けのテーブルに案内して、
「奥に2名様、手前に1名様でお願いします」
と言う。
40年ばかり生きてきて、それなりにいろいろな店に入ったことがあるが、4人掛けのテーブルにどう座るか指定する店は、初めてである。
調理場で若い店員が主人に怒られている。お冷やを出してないだの、お通しを忘れるだの、注文の取り方が悪いだのと、ぐちぐち言われている。
誰かが小言を食らっている様を肴に飲むのは、誠に結構なものである――というほど、さすがにわたしも性格が悪くない。
まあ、どうにも不愉快というほどでもないが、客に聞こえないところでやるか、さらっと切り上げろよな、と思う。
客が「すみませーん」と声をかけると、まだ「すみま」くらいのところで、おばさんが、
「ちょっとお待ちください。こちらにこれ(盆に載せた料理)を運んでからうかがいますので」
とさえぎるようにして言う。言葉遣いは丁寧だが、客の鼻っ柱を折るようで、どうもよくない。
勘定するとき、レジの横に小さな額がかかっていることに気づいた。うちの店が手打ち蕎麦にどれだけ力を入れているか、仰々しく能書きが書いてある。
毎度ながら、この手の能書きを見ると、知るか!、と思う。おれにだって、一応、舌はあるぜ。
ちょっと気のきいた、小料理屋も兼ねた蕎麦屋を目指しているらしい。しかし、形ばかり整えてもなあ、と思う。ま、ルーキーは長い目で見てやれ、という考え方もあるが。
この街にまた来ても、ここには入らないだろうな、と思った。
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「今日の嘘八百」
嘘六百七十八 地球温暖化による海面上昇を抑制するには、シベリアあたりの使っていない土地を海岸からどんどん削っていくといいらしい。