昨日の続き。人にはそれぞれ、勘違いしていたことがある、という話だ。
友達のTは、中学時代、よくエアチェックをしていた。
もしかすると、今の若い人(という言葉がスッと出るようになったところが我ながらオソロシイ)は「エアチェック」という言葉がわからないかもしれない。ラジオの音楽番組に流れる曲を録音することだ。
Tはラジカセ(はさすがにわかりますよね?)で録音していた。
ラジカセのスピーカーの上には小さなマイクがある。
Tは音の信号がラジカセの中で処理されて録音されるとは知らず、スピーカーから出るラジオの音を、マイクが拾って録音するのだと信じ込んでいた。
彼の信じていた通りなら、物音を立てると、その音もマイクが拾ってしまう。
だから、Tはエアチェックをするときいつも、音を微塵にも立てないよう、布団に潜り込んで丸くなっていたという。
あるとき、例によってエアチェックするため、布団の中で丸くなっていたら、親がガラッとドアを開けて部屋に入ってきた。「おい」。
「あっ!」
と思わずTは声を挙げた。
親は、布団の中に隠れた息子が「あっ!」などと言うものだから、例の、中学生の男子がやらかす、けしからぬ行為の途中だと勘違いしたらしい。すっとそのまま、ドアを閉めたそうである。
ちなみにそのときラジオからは八代亜紀の「雨の慕情」が流れていた。親は“こやつは八代亜紀でイケるのか”と二重に勘違いしたそうである。
というのは、今、脚色しました。ハイ。どうもスミマセン。
次はE嬢の勘違いの話。
中学の遠足に、カメラを持っていっていいことになった。
E嬢もカメラを用意したのだが、夜遅くになって、フィルムがないことに気がついた。
「あらあ、どうしようねえ。もう店も閉まってるし」とご母堂。
「大丈夫だよ。フィルムの自動販売機があるから、買ってくる」とE嬢。
フィルムの自動販売機なんてあるのかしら、とご母堂は思いながら、夜も遅いから2人で買いにいくことにした。
行ってみると、薬屋の前である。夜目に明るい照明の下に「家族計画」という文字が見えた。
2人は立ち止まった。E嬢もさすがに何の自動販売機か合点した。
おそらく、2人が立ち止まったのは一瞬のことだろうが、その一瞬には永遠の成分が含まれていたのではないかと想像する。
「ち、違ったみたいね」
2人は来た道を戻った。互いに言葉少なであったという。
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「今日の嘘八百」
嘘六百七十一 鹿児島の陸上競技の大会では、全員が「チェストーッ!」とわめきながらスタートするので、やかましくて仕方ないらしい。