あらすじ

 ケータイ小説なるものが流行っているらしい。


「らしい」と書くのは、実は一度も読んだことがないからで、何しろわたしは携帯電話のメールすらほとんど使ったことがない。自分から送信したのは今までに10回あるかないかくらいではないか。


 どうやら、高校生が恋に落ちて、どっちかが子どもの頃に受けた心の傷に苦しんでいて、陰湿なイジメにあい、愛を確かめ合い、女の子のほうがレイプされ、それでも頑張って生きていこうと決意し、男の子のほうが難病になって、治療費のために女の子が売春し、妊娠が判明し、流産し、なんかいろいろとあって、どっちかが(あるいは両方が)最後には死んでしまう、と、そんなようなことを書くと、大変にウケるらしい。


 あちこちから断片的に得た知識を総合すると、そういうことになる。


 しかしまあ、こんな書き方がひどすぎることくらい、わたしだってわかっている。
 だったらちゃんと読め、というのは正論、現在のスリランカだが、今さら間に合わない。


 そこで、この、いろいろな意味で今さら手遅れ男が思いついたコソクな手段が、「ケータイ小説 あらすじ」で検索して、とりあえず目についたものを読んでいく、という卑怯な手口である。


 全国のセーショーネンのミナサン! 大人って汚いんだよ(正しくは、わたしが、だが)。


 検索結果をテキトーに抜き書きする。



背が小さくて普通の少女、美嘉。
長身でイケメンのヒロはギャルたちに人気がある。
ひょんなことから2人は出会い、
意気投合して付き合うことになる。


しかし、ヒロの元彼女からのいやがらせに悩まされ、
ヒロとの子を妊娠していた美嘉は、流産してしまう。


そんな逆境を通して2人の絆は一層深まったかのように見えたのだが、
突然ヒロは別れを告げる・・・。


亀子剛(かめこつよし)は、2人組アイドル・ペリエAの清原花音(きよはらかのん)の追っかけカメラ小僧。デビュー4年目、近頃人気下降気味の彼女を、いつものように最前列で熱写していると、貧血気味の花音が2階のステージから落ちてきた! 必死でキャッチしたその途端、大衝撃に見舞われ、気を失った! 病院で目覚め、鏡に映った自分の姿を見た時、剛は絶叫しそうになる。自分がB83.W57.H88の、清原花音になっていたから……。


性を売り物にする女子大生と出張ホストのピュアな恋物語。さくらは、自宅のマンションから出張ホストの事務所を観察していた。目的は絶世の美少年。レオと名づけていた。


挫折した元野球少年タイラの彼女は、ロックバンドのボーカルとしてプロデビューをめざしているマコト。二人の前に現れたイベントプロモーターの辻堂の力で、マコトの夢は大きく動き出すが、その代償として二人の関係には微妙にすれ違いが生じ始める。プロ野球選手への夢をあきらめ、流されて生きるタイラの心にも少しずつ変化が訪れるが……。


キャバクラで働く20歳のマユは、客の優太とつき合いはじめる。ケンカや誤解からすれ違い、別れも経験するが、互いの存在の大きさに気づき、強い絆で結ばれていく。マユの妊娠を機に結婚を決意した二人。しかし、その先に待ち受けていた運命とは…。

 はああ。読んでいるだけで、人生5回くらい生きた気分です。


 どれも、どこかで読んだ(見た)ことのあるようなパターン、とも感じるが、あらすじにまとめると、どうしてもそうなってしまうのだろう。


 夏目漱石の「それから」だって、まとめ方しだいでは、次のようになってしまう。



大富豪の息子ダイスケは大学を卒業後、仕事をせずに気ままな生活を送っているが、その心にどこか満たされないものを抱えている。そんなダイスケの前に、かつての恋人ミチヨが現れた! ミチヨはダイスケの大学時代の親友ヒラオカと結婚したが、ヒラオカはある事件が元で今は荒んだ生活を送っている。ミチヨへの愛がよみがえったダイスケは、現在の恵まれた生活を捨て、ミチヨとの愛を貫く決心をするが……。

 これ、誰かケータイ小説にしてみてくれないか。舞台は現代にして、原作は一切読まず、このあらすじだけを元にして。


 傑作になるような、とてつもない駄作になるような……。

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「今日の嘘八百」


嘘六百三十二 今、主人公の女性が食って、食って、太りまくる「女殺脂地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」というケータイ小説を書いております。