島国洋語感覚

 言うまでもなく(なら、言うな)、我が国は、イザナギイザナミの二神が矛で混沌をかき回し、その矛のしずくからできた淤能碁呂島に降り立ちて、成り成りて成り合はざる処一処と成り成りて成り余れる処一処を(中略)というアダルトな行為の末に生まれた神聖なる島国であるが、島国であるからして、海外の人々との直接の接触は比較的少なく、もっぱら物や言葉、あるいは概念だけが輸入されて、四季折々の美しい風景の中、あれよあれよと繁殖し、時には異種交配や突然変異などを起こしつつ現在に至る、という歴史を繰り返して現在に至っているわけである。


 思うに、我がヤーパン民族のモノマネ・本歌取り・kaizen・変態文化というのは、このような地理的条件によって規定されたところもあるのではないかもしれないこともないようであるのだが、本論とは関係ないし、そもそも歯が立たないテーマだから、やっぱ、やめときます。


 それでもって、成り成りて成り合はざる処一処と成り成りて成り余れる処一処を(中略)というアダルトで神聖な島国において、輸入された言葉や概念が、現在、どういうことになっておるかというと、例えば、あおぞら銀行が円定期預金を次のような商品名で売り出しているのだそうだ。


エクセレント ファ〜スト Vバリュ〜


 アホか。


 商品名中の「〜」は、広告でこういう表記をしていた。何ヲ浮カレテオルノデアロウカ。


 これ、訳すと、「素晴らしい第一の値打ち」、「優秀な素早い対価」である(「ファ〜スト」が“first”なのか、“fast”なのかわからない)。意味不明だ。


 だいたい、「あおぞら銀行」というのは何なのだろう。野外にビニールシートでも敷いて銀行を開いているのであろうか。


 ふとテーブルの上を見ると、缶コーヒーが置いてある。缶にこう記してある。


WORLD EXECUTIVE BLEND


「世界の重役の調合」――というのは、少々意地悪い訳だ。もうちょっと好意的に訳すと(別に好意なぞ抱いちゃいないが)、「世界的で高級なブレンド」である。


 先ほど飲んだが、それほどでもなかったぞ。


 他にも有名なところでは、POCARI SWEAT、「ポカリな(の?)汗」という商品がある。英語を母語とする人からすると、500ミリリットルのペットボトルにすっぱい汗がたっぷり詰まっているみたいで、胃の腑のあたりからジャック・ゲロなのだそうだ。


 ワールドワイドにシンク・グローバルな時代なのだから、そこらへん、もちっと配慮したらいかがか。とは、別に思ってません。こういうことは、放っといたほうが面白いですから。


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「今日の嘘八百」


嘘二百八 白雪姫に出てくる鏡は歪んでいた。