ご存じの通り、現在の皇居は元々、江戸城である。
今でも庭の手入れをする係をお庭番と呼ぶのだそうで、奥では、
「伊蔵、おるか」
「はっ。陛下、御ん前に」
「デンマークへの密使を頼みたい」
という会話がなされているらしい。嘘である。
しかし、あのお庭番というのも、謎の仕事である。
表沙汰にできない使命や、急を要する仕事を命ずるために人を(忍び、らしい)庭に置いておく、という発想は、まあ、わからぬでもない。
しかし、お庭番としても、一日二十四時間、庭でじっとしているわけにもいくまい。
そうすると、殿様は、
「む。もう、酉の刻(現在の午後6時)か。伊蔵はうちに帰ってしもうたな」
とか、
「む。辰の刻(現在の午前8時)か。伊蔵がそろそろ出勤してくる頃だな」
とか、伊蔵(か誰だか知らないが)の勤務時間を考えていたのだろうか。
それとも、急を要する使命というのはいつ発生するかわからないから、お庭番は三交代か何かで常に控えていたのか。
しかし、殿様には殿様で、プライベート・ライフというものがあるだろう。
およしくださいご無体な、よいではないかよいではないか、あーれー、くるくるくる、という状況もあったはずで(はずってことはないが)、夜勤のお庭番は、毎晩、殿様の色事を聞かされてかなわなかったろうと想像する。
あるいは、殿様からすると、「どうも、伊蔵が聞いておらぬと今イチ、燃えぬわい」と、こう、ややこしい心理になることもあったかもしれず、なかなかに興味深いお庭番の位置づけであるが、ちょっと色のほうに流れてきたので、今日はここまで。
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「今日の嘘八百」
嘘二百三 皇居のお堀の水面には、夜、竹が何本かプカプカ立っていることがあるそうだ。