ネギの食べ方

 人生にはよくわからぬことが多い。よくわからぬからこそ飽きないとも言える。


 ――今日のわたしはカッコいい。


 わたしの人生の謎第八百四十三番には、「鴨せいろのネギ」という項がある。


 鴨せいろはご承知の通り、鴨肉の入った汁に蕎麦をつけて食す、というものだ。
 汁には長ネギも入っている。


 ここまではいい。
 ところが、鴨せいろを頼むと、薬味もついてくる。刻んだネギも小皿に載ってくるのだ。


 ここんところがよくわからない。


 あの刻んだネギ、どういうふうに使えばいいのか。
 汁にはすでに長ネギが入っているのだ。そこにさらに刻んだネギも入れるのか。


 いや、そりゃあ、煮えた長ネギと生の刻みネギでは味が違う。
 長ネギは煮られて苦労したおかげで人間が丸くなり、やわらかな甘みが出ている。刻みネギは挫折を知らないから、血気盛んでぴりりと元気がある。


 しかし、しょせん、どちらもネギである。


 あの刻んだネギを入れるタイミングもよくわからない。


 汁の中の長ネギを全部食べてしまってからネギの補充員として使うべきなのか、長ネギの立場を無視するようでいささか申し訳ないが、最初から入れるべきなのか。


 こういうことは誰に訊くといいのだろう。


 蕎麦屋の人に訊くのが順当なのだろうが、下手すると相手が「いや、そ、それは考えたことがなかった」とうろたえる恐れがある。
 本職の人に恥をかかせるのは嫌だから、訊けないでいる。


 あの、テレビに出てくるコメンテーターとかいう、何にでもコメントしてしまう(!)人達に訊いてみたら、どう答えるだろう。


 あるいは、知的コメンテーターというのか、経済、政治、社会問題と、ムツカしそうな話なら何でも顔を出す凄い先生達に訊いてみたら、どういう意見をいただけるだろう。
 構造問題とか、日本社会の変質とか、そういう話に発展するのかな。


 いっそ、食品のパッケージによく記してあるお客様相談室に相談してみようかとも思うのだが、後一歩の勇気が出ない。


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「今日の嘘八百」


嘘百九十七 ウィリアム・テルの息子の額には「リハーサル」の跡があったという。