車寅次郎

 何年前だったか、テレビ東京が「男はつらいよ」シリーズを全作放送したことがある。
 そのとき、番組宣伝のCMで「粋でイナセな我らが寅さん」というようなセリフを使っていた。


 寅さんと粋を勘違いしている、と感じた。


 寅さんは野暮な男だ。
 粋に振る舞おうとして、地の野暮なところがつい出てしまうから、おかしいのだ。


 寅さんが愛されている理由も、そんなところにあると思う。


 粋な男、というのは強く惹きつける魅力があるだろうけど、反面、鋭利な刃物のようなもので、危ない。
 あるいは、ヤボチンスキー軍団(たいがいの男はそうだ)からすれば、ヤな男かもしれない。


 人には、欠けたものを愛しく感じる傾きがある。欠けていることに安心感を覚えるからか、あるいは、欠けた部分を埋めてやりたくなるからか。


 そうして、寅さんはあちこち、欠けまくっている。だからこそ、広く、安心感を持って愛されたのだと思う。