最期に見たもの

 あ。ああ、どうも。見られちゃいましたね。あはは。いやあ、私としたことが、とんだ初歩的ミスだ。


 私? 何と言えばいいのかな。よく人間の皆さんには、死神とか、悪魔と呼ばれたりもしますけどね。


 あ、でも、誤解しないでくださいね。私達が来るから死ぬわけじゃないんです。人間は勝手に死んじゃって、そこに私達が来るだけなんです。


 私達の仕事はね、人を死なせることじゃなくて、記憶を抜くことなんです。


 うーんと、今だったら、パソコンあるでしょ。パソコンからパソコンへデータを転送しますよね。
 ああいうことを、人間の記憶でやるんです。正確には、ちょっと違うんだけど、ま、そこんとこは皆さんに理解できないところで。


 あの、よく死ぬときに、人生が走馬燈のようによみがえるっていうでしょ。あれ、本当ですよ。


 人間はね、生まれたときからの記憶を、死ぬまで全部蓄えているんです。思い出せないだけで。


 その記憶を、死ぬ瞬間に私達が抜くわけ。データ転送、ね。
 で、転送するときに、流れていくデータを、皆さんは凄いスピードで目にするわけですよ。目の前をデータが流れていくわけ。スキャンするっていうかな。
 本をぱらぱらめくるって言ってもいいし、ビデオを超高速でダビングするって言ってもいい。


 抜いた記憶をどうするかっていうとね、それを見て楽しむ方々がいるんです。


 だってアナタ、他人の人生ほど面白いものってないですからね。「あはは、こんなことやってやがらあ」ってね。もう、腹抱えて笑うシーンがいっぱいありますよ。
 笑いあり、涙あり、感動あり、ポルノあり。


 だから、誰も見ていないと思って、あんまり変なこと、やらないほうがいいですよ。後でみーんな、見られちゃうんだから。
 誰も見ていないと思って、やったことほど、受けるしね。人の秘密、隠し事ほど、愚かで、見ていて楽しいものはないですよ。


 まあ、今さらそんなこと言っても、遅いですけど。あはは。


 じゃ、そろそろ抜きますね。


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「今日の嘘八百」


嘘百七十四 泉重千代さんの走馬燈は非常に長かった。