卵というのは、便利にできてるなあ、とつくづく思う。
料理の素材としては、目玉焼きやスクランブル・エッグのように主役を張ることもできれば、揚げ物やお菓子などで裏方にまわることもある。
生でご飯や肉にかければソースになるし、お湯に入れるだけでゆで卵にもなる。
小ぶりだが、栄養価は高い。
殻で適度なサイズにパッケージングしてある。
実に便利だ。
栄養価が高くてパッケージングしてある、という点ではバナナも同じだが、汎用性の点で、卵のほうが断然優れている。
ただし、持ち運ぶとき割れやすい、というのが少々難点ではある。
稲本家の「やってはならぬ家訓」第七十八条に、「卵を上着の内ポケットに入れたまま満員電車に乗ってはならぬ」というのがある。
出来の悪い子孫であるわたしは、他の家訓をいろいろ破ってきたのだが、この第七十八条に限っては、今まで厳しく守り通してきた。
不思議に思うのだが、メンドリ。彼女達は卵を温めようと上に乗っかるとき、うっかりグワシャッとつぶしてしまうことはないのだろうか。
世の中にあれだけメンドリがいれば(何しろ、毎日消費される卵以上の数のメンドリが存在するのだ)、中には不注意なメンドリもいそうなものだが。
ただし、あの割れやすさにも利点はある。
料理のとき便利だというのもあるが、武器としての効果も見逃せない。
投げつけても、相手が死ぬことはないし、怪我すらしない。
しかも、でろりん、と垂れ落ちる中味が、相手の屈辱感をいや増す。
成田で、ドイツから帰ってきたあの一団に、卵を投げつける輩が出るのだろうか。
その手の行為をサッカーや国を愛することと思い込んでいる連中がいるので、困る(ま、本当はそんなに困ってないけど)。
卵を投げるんなら、空港で、「すわ、卵投げフーリガン登場か?!」と緊張が高まった瞬間、いっせいに自分達に向かって投げろ、と思う。そっちのほうがはるかに面白いし、メッセージとしても鮮烈だ。
もし卵を投げつける不逞の輩が出そうなら、一団の人々には、フライパンを手にして空港に降り立つことを勧めたい。次々と飛んでくる卵を、ヤッ、ホッ、ハッとフライパンで次々に防ぐのだ。
しかし、そういうことをすると、「ふざけるな!」とか、「真剣さが足りない」と言われるんだろうなあ。
なんでふざけちゃいかんのか、と思うのだけれども。
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「今日の嘘八百」
嘘百六十九 濡れ手に粟をひっつけたら、なかなか払い落とせないうえに、シケてしまった。