泣きながら生まれる

 人間は、たいてい、激しく泣け叫びながら生まれてくる。


 もっとも例外もあって、おしんは赤ん坊のときから我慢強かったので、目に涙を浮かべながら、歯を食いしばってじっと耐えていたそうである。嘘である。


 芳村真理は「どーもー」と言いながら生まれてきたそうである。細木数子は「地獄に堕ちるわよ」と言いながら生まれてきたそうである。鹿児島男児は「チェストーッ!」と裂帛の気合いとともに飛び出してくるそうである。どれも嘘である。


 生まれた直後から泣くのは人間だけなのだろうか。


 生まれたばかりの犬や猫はキューキュー、ミーミー鳴くけれども、「泣く」という感じではない。まあ、成犬、成猫になってからも(人間のような表現の仕方では)泣くことがないから、当然といえば当然である。
 人間に比較的近いチンパンジーやゴリラはどうなのだろう。


 そもそも、なぜ人間は泣きながら生まれてくるのか。


 もっとも、笑いながら生まれてこられても、困るといえば困る。


「アーッハッハッハ。ウハ、ウハ、ウハハハハハハハ。アヒョヒョ。アヒョヒョ。ギャハハハハハハハ。ヒーヒー。ククッ。ククククッ。ケケケケッ。ダハッダハッダハッ、ダハハハハハハハ。は〜あ」


 これでは、新しい命がこの世に生まれ出る感動、どころではない。


 一説によれば、人は、安穏と母親と一体で暮らしていられた胎内から、母親と切り離され、不安定で流動的な世界へとひとり放り出される悲しみから、泣くのだという。
 真偽のほどはわからない。


 が、しかし、赤ん坊の爆発的な泣き声を、自分が突然置かれた状況に対する、抗議の声と解釈してみることは可能だろう。


 人間は、世界に抗いながら生まれ、敗北して死んでいくのである。


 ――というのは、カッコよさそうなので書いてみただけである。


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「今日の嘘八百」


嘘百五十九 笑ってんだけど、あんま福来ないねえ。