世界遺産

 NEWSWEEK日本版の新聞広告の見出しに、こんなのがあった。


スペシャルリポート 年間8億人が旅する時代に緊急提言!
世界遺産が危ない
ルクソールモルディブ万里の長城…今すぐ訪れておくべき7大スポット
●環境破壊の火に油、観光公害をもたらしたユネスコ登録


 雑誌自体は読んでいない。見出しを見る限り、ロコツに矛盾していて、笑ってしまった。
「観光公害をもたらした」と書く一方で、「今すぐ訪れておくべき7大スポット」とある。


 環境破壊が進んでいる(という意味だろう)7大スポットを、「破壊される前に見ておかねば」と多くの人が訪れれば、観光公害で環境破壊はさらに進んでしまう。
 このNEWSWEEK日本版の見出しは、世界遺産の矛盾をよく表していると思う。


 世界遺産は、表向き、文化遺産や自然遺産の保護を目的としている。
 保護という点からすれば、観光で人が押し寄せたり、新たな交通機関が設けられたり、セコい土産物屋が乱立したりすることは、おおよそマイナスに働く。


 世界遺産について定めた「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」には、観光の宣伝目的について何も書かれていない。
 世界遺産に登録されると、その遺産を持つ国は、保護についての国際協力を得られる一方で、保護についての義務も生じる。建前としては、観光の宣伝を目的とした制度ではない。


 しかし、「世界遺産」というハクがつけば、宣伝効果は大きい。特に地元には観光収入が見込めるだろう。
 各国や地元が、文化遺産や自然遺産を世界遺産に登録したがるのには、宣伝目的も大きいはずだ。
 その結果、保護するはずが、観光公害による破壊が進む、という逆の結果になりかねない。


 まあ、世界遺産に登録されたことによる観光収入が保護のために活かされれば、いいふうに回ることも考えられないではない。しかし、なかなかそううまく行くケースばかりではないだろう。


「故郷は遠きにありて思うもの」近くば寄って目にも見よ(後半は、確か(c)筒井康隆)ではないが、世界遺産尊いと思うなら、普通人は行かないで、遠くで思っているのが一番なのではないか。