風評被害

 風評被害というのがあって、これは誰に責任があるのか、特定できないところが厄介だ。


 刑罰というのは、建前としては犯罪者を教導するため、ということになっていて、まあ、そういう面もあるのだろうが、一方で見せしめの意味もある。犯罪抑止力とでもいうのだろうか。


 ところが、風評被害というのは、何しろ、噂がどこからどんなふうに流れてきたかわからないものだから、なかなか止められない。


 例えば、以下の文はわたしが出元であると明記しておく。そうして、思いつきのデタラメであることもはっきりさせておく。できれば、これについては何も書かないでほしい。書くなら、自分の責任で「仮の話である。デタラメである。稲本という馬鹿が思いつきで書いていたことについて、自分も書くのである」と明記して書いていただきたい。
 よござんすか。よござんすね。よござんさない方は、この地点で、ゲラウ・ヒヤッ、ざんすよ。


 今、仮に某インターネット・ショッピングの会社が経営上の綱渡りをしているとする。
 で、経営が危なくなれば、社員の志気は下がるし、賃金ほか諸々の経費だって下がる。
 そうすると、社員しかアクセスできない個人情報を売っ払おうとする者だって、出てこないと限らない。


 さて、この話を興味を持って読んで、「自分のブログでそれについて語ろう」と思った人は、おそらく、自分がインパクトを受けた部分を中心に書くだろう。
 インパクトのあまりない言葉、「仮に」、「しているとする」、「出てこないと限らない」が抜け落ちる可能性は大だ。


 たとえ、二番目の人が「仮の話」として書いたって、それを読んだ三番目の人はそうは書かないかもしれない。
 あるいは、自分の意見を付け加えることだって、大いにある。例えば、「クレジットカード番号だって流出するんではないか」、と。


 そうすると、四番目の人がそそっかしかったり、いい加減に読んでいたりして、「クレジットカード番号が流出する」と書く。で、五番目の人は、ほんのちょっとの勘違いで「クレジットカード番号が流出した」と書いてしまう。


 ここまで来ると、多くの人にとって、一大事である。わーっと話は広まって、某インターネット・ショッピングの会社への登録を解除する人が殺到するだろう。風評被害が完成する。


 ポイントは、「某インターネット・ショッピングの会社が綱渡りをしているとする。」というところだ。それから、「個人情報の流出」と「クレジットカード」。


 人々の興味のある話題に、不安な要素と、今いち仕組みがわからないものが重なる(インターネットにおけるクレジットカードの仕組みをちゃんとわかっている人なんて、どれだけいるだろう)。風評が広まる可能性は十分だ。


 一対一の噂でさえ、風評被害の広がりは早いのに、一対多のインターネットだ。きちんとした情報が伝わる前に、または正しい情報は無視されて、後戻り不可能な事態が起こりかねない。


 話というのは、たいがい、面白いもの、不安をかき立てるもの、怖いものが広まる。心の中にある、自分でも案外、気づいていないものが反映する。
 なぜなら、人はつまらない話をしたくないからだ。本当かどうかは、意外なほど、関係ない。


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