元・藤沢周平の世界

 山田洋次監督の「隠し剣鬼の爪」を見た。


 安心して見られる時代劇で、思い返してみれば、山田洋次監督の映画で安心して見られない映画はないのであった。


たそがれ清兵衛」に続いての、藤沢周平作品の映画化で、これも安心できる組み合わせだ。ストーリーまでよく似ている。


 これが、例えば、フィリップ・K・ディックの小説を山田洋次監督が映画化! となったら、いくら山田洋次監督作品であっても、少々不安になるだろう。
ブレードランナー」(原作の題名は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」)が人情話になったりして。それはそれで、怖い物見たさ、というのはある。


 さて、原作を書いた藤沢周平のほうだが、短編「隠し剣鬼の爪」が収められている「隠し剣孤影抄」をamazonで検索してみると、こんな作品が収められているのだそうだ。


 邪剣竜尾返し
 臆病剣松風
 暗殺剣虎ノ眼
 必死剣鳥刺し
 隠し剣鬼ノ爪
 女人剣さざ波
 悲運剣芦刈り
 宿命剣鬼走り


 実は「〜剣」さえ付けば何でもよかったのではないか? そんな疑惑にとらわれる。


 映画になった「隠し剣鬼ノ爪」が、例えば、


 隠し剣俺の塩


 とかだったりしても、案外、イケたんじゃないか。
 あるいは、「劣情剣白桃ノ尻」とか、「ババア剣さざ波」とかでも、うっかり読んでしまうような気がする。


 ニッポン映画がアカデミー賞にノミネートされた! といって、いろんな人がバンザイ、バンザイした「たそがれ清兵衛」がこんなタイトルだったら、どうだろう。


 たそがれた清兵衛


 なんだか、映画が始まって5分で終わっちゃうような気もするが、これはこれで、人生のいかんともしがたい味わいというものが感じられる。


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