寿司は好きだが、寿司屋がちょっと苦手だ。
正確には、寿司屋のカウンターで食べるのが、苦手である。
わたしは気短かで、どうも、ゆったり食事を楽しむ、ということができない。
目の前にあるものはとりあえず、食ってしまう、飲んでしまう。
ところが、寿司屋のカウンターではいちいち、何を食うか、頼まなければならない。
「マグロ」
「ハマチ」
「イカ」
「タコ」
「赤貝」
どうも、安いネタばかりが並ぶが、放っておいてくれ。なぜか、そういうネタが好きなのだ。値段とは関係ない。
で、ポン、と口に入れて、ちょっと噛んで、飲み込んでしまう。
食道を通過すると、もう、手持ちぶさたで困るから、寿司屋のオヤジには20秒ごとに頼むことになる。忙しい客である。店の中でも浮く。
元々、寿司というのは保存食で、押し寿司が主流だった。
しかし、気短な江戸の人間は、さっと握って、ぱっと食える、と江戸前の握り寿司を開発し、好んだらしい。
だから、オヤジがぱっぱ、ぱっぱと握って、客がぱっぱ、ぱっぱと食い、あらよっ、と、一万円札を放り投げて出ていくのが元々なのだ。
ところが、今や、寿司屋のカウンターは、ゆっくりと寿司を楽しむ場、ということになってしまった。
お茶をズズッとすすって、
オヤジ「何にいたしましょう」
客「そうだなあ。何にしようかなあ。何が入ってるの?」
オヤジ「ヒラメにいいのが入ってますよ。後は、甘海老に、イサキ」
客「うーん、そうだなあ。じゃあ、ヒラメからもらおうか」
オヤジ「へい」
じれったい。これはこれで構わないが、わたしにはどうも合わない。
さっと食って、ぱっと出られる、という点では、回転寿司が、実は江戸前の正統なのかもしれない(でもないかな……)。
しかし、あれも、悪くはないが、いかにも味気ない。
立ち食いの江戸前握り寿司。回転が早い分、値段は安いが、ネタはいい。
そんな店が理想だ。
さっと頼んで、さっと食って、あらよっ。
これがいいと思うんだがな。
寿司屋のカウンターはどうも、テンポがつかめない。イライラする。