大名

 具体的なようで、実は抽象的な存在というものがある。


 と、いきなり力いっぱい抽象的に書き始めて、面食らった人もいるだろう。作戦通りである。参ったか。


 別に参らんでもいいが、なに、話は簡単だ。


 大名についてである。
 あなたは大名についてどれだけのことを知っているか?
 それは、虚無僧はいつも尺八を吹いて街道を歩いているとか、忍者は黒ずくめの格好で昼間はどうしているのかしらん、どこで着替えているのかしらんとか、越後屋が持ってくる菓子折には必ず黄金色の菓子が詰まっていて「越後屋、お前もワルよのう」、「お代官様ほどでは」、ワッハッハ、ホッホッホ、と会話を交わすとかと同じく、時代劇で覚えたいい加減な知識でないと言い切れるか?


越後屋「菓子は菓子でも黄金色の菓子でございます」
代官「越後屋、お前もワルよのう」
越後屋「ホッホッホ。お代官様ほどでは」
代官「ぶ、無礼者っ!」
 ズビズバッ!


 本筋とは関係ないが、思いついたので、とりあえず書いておいた。


 さて、えー、何の話だったか。


 そうだ。大名だ。
 例えば、大名舟盛りという、舟形の器に刺身をどかちゃっと盛りつける料理(と呼ぶのか?)がある。


 本当の大名は、あんなもの、本当に食っていたのだろうか。


 いや、どうだか知らないが、ちょっと考えにくい。
 大名舟盛りから刺身をつまんでいる大名、というのは、日常であれ、宴席であれ、意外と様にならない。あさましい感じがする。


「大名舟盛り」の「大名」というのは、おそらく現実ではない、抽象としての「大名」なのである。


 とりあえず力強く言い切っておく。責任はとらない。


 ここで一息、おく。