うろ覚えだが、確か、ボブ・ディランに「家出なんて簡単さ。ドアを開けて、外に出ればいいのさ」という言葉があったと思う。
わたしの家の前は、住宅街の細い道路だ。
ドアを開け、外に出る。
テキトーに角を曲がって、幹線道路に出たら、道に沿って、歩き続ける。
橋を渡り、海底トンネルを抜ける。
気が向いたら、小路に入ってみてもよい。
よく知らない土地の住宅街の路地をうろうろする。
北海道、本州、四国、九州の道はほとんど全てがつながっている。
ということは、ふらっと自宅を出て、とぼとぼ歩けば、その四島のどの道へも行けるということだ。
鹿児島のシラス台地でサツマイモを育てている人のところへも、高地の飲屋街で飲んだくれているオバハンのところへも、下北半島の原子力発電所に弁当を納めている一家のところへも、稚内の入り組んだ道の行き止まりにある、漁師のオッサンの家にも。
初恋のあの人のところへも、憎いあんちきしょうのところへも、懐かしきあの人のところへも、見ず知らずの誰かのところへも。
金と体力があれば、どこへでも行ける。
ま、自動車専用道路の脇を歩くとか、そういうことも必要かもしれないが、行こうと思えば行けるのだ。
道のある限り、曲がり角や橋やトンネルを通じて、日本の四大島のほとんど全ての人のところへ、歩いて行ける。