パロディ

 昨晩、ひさびさに「ラトルズ」(ASIN:B000BI55MY)を見た。


 ミュージシャンのニール・イネスモンティ・パイソンエリック・アイドルが中心になって作ったテレビ映画で、放送はたぶん1977年か、1978年だと思う。


 ビートルズの誕生から解散までをパロディにしたシロモノだ。エリック・アイドルが進行役を務めるドキュメンタリー形式になっている。
 時々、NHK教育BBC制作の音楽ドキュメンタリー(ジャズの歴史とか、ルイ・アームストロングの生涯とか)を放送するが、あんな感じ。


 番組は、ビートルズを模したバンド、ラトルズの足跡を追う。明らかにジョン・レノンとわかる人物にはニール・イネスが、明らかにポール・マッカートニーとわかる人物にはエリック・アイドル(進行役と二役)が扮している。


 音楽ドキュメンタリーらしく、「インサイダー的に当時のラトルズを語る」役として、ミック・ジャガーポール・サイモンが出てきて、いかにもそれっぽいことをそれっぽい表情で語る。
 レポーター役としてジョージ・ハリスンも出てくるが、面白くも何ともない。「たまたま凄いバンドにいたので、たまたま凄くなった普通の人が、凄いバンドがなくなって、普通の有名人になった姿」を見せてくれ、なにやら、ソコハカカナシズム(そこはかとなく哀しい感覚)である。


 もう何度も見ているので、ギャグのひとつひとつで笑うことはないが、それでも楽しめた。


 ビートルズの曲は一曲も登場しない。


 ラトルズはあくまでラトルズ・オリジナルの曲を演奏し、歌う。
 しかし、これが、どの曲もビートルズが作ったとしか思えない出来なのだ。メロディもコード進行も歌詞も違うのだが、「ああ、あの曲を表しているのね」とわかる。


 歌真似はもちろん、メロディ、ハーモニー、アレンジ、使う楽器の音色、録音まで真似ている。初期のビートルズの演奏の下手くそさや、どうでもいいようなギターソロ、ギターの調弦のいい加減さまで再現している。


 相当、手が込んでいる。おそらく、楽曲と演奏の真似にかなりの時間を費やしたのだろう。それがなかったら、大した出来の番組にはならなかったかもしれない。
 エリック・アイドルニール・イネスは、この番組を製作中、相当、没頭して、充実していたのではないか。


 パロディというのは徹底してやるか、あるいはさらっとやって流すかの、どちらかがいいのかもしれない。
 中途半端にやって、客に「えへへ、どう? パロディです。スリスリ」と甘えるものは、つまらなくなる気がする。知らんけど。


 こういうのは、ビートルズのようにエピソードが豊富で、音楽のワクからはみ出た存在だから、成立するのだろう。


 日本で誰かイケるかな、と考えてみた。
 最初は、美空ひばり石原裕次郎を候補に挙げたが、ともにダメだ。世代間で認識に差がありすぎるし、伝説もそんなに一般化していない。
 田中角栄長嶋茂雄三島由紀夫なら何とかなるかもしれないが、やるとなると「冗談じゃない」とマジメに怒り狂う人が出てきそうだ。冗談なのに。


 ともあれ、ラトルズは偉大である。あるいは、ビートルズよりも。
 んなわけないか。


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