金儲け

 わたしはタイガースのファンではないし、村上ファンドに投資しているわけでもなく、阪神球団の株式上場について、特に意見はない。
 まあ、実際に株式上場したらどういうことが起きるのか(あるいは大したこと起きないのか)、興味はある。しかし、これはあくまで他人事に対する「へええ」という無責任な興味だ。


 むしろ、一連のドタバタに対する人々の反応のほうが面白い。各人の物の見方、考え方が、くっきり出るからだ。


 中でも、金儲けを不浄のこととする感じ方が目立つ。
プロ野球は文化であり、金儲けの視点だけで物事を決め手はならない」とか、「ファンはタイガースを無償の愛で支えているのであり、株式を買わせるというのは許せない」とか、まあ、そんなような言葉をよく目にする。


 その典型的な意見が、10月15日の朝日新聞「私の視点」に載っていた国定浩一という人の寄稿文だ。
 大阪学院大学の経済学の教授で、阪神タイガース私設応援団の顧問なのだそうだが、わたしは知らない。


 金儲けを不浄とする典型的な言葉を、寄稿文から拾ってみる。


子どもに夢を与えるスポーツに、金をからませるのはよくない。


(この「子どもに夢を与えるスポーツ」というのも、今回のドタバタに限らず、よく出てくる言葉だ。ガキどものミナサンよ、今のうちに夢を見ておきなさい。大人になるともはや夢も希望もないのだから)


そのファンが、純粋な気持ちで70年間応援してきた心と文化。そこに札束をからませて土足で踏み込まれたら、反発するのは当然だろう。


子どもが「巨人に勝ったら、阪神の株は上がるね」と言ったら、おしまいだ。


(むしろ、ある種の将来性か冗談のセンスを感じさせる子どもと思うが)


村上氏の目的は金もうけだろう。上場させて上場益が会社に入れば、大株主として、その分の利益を吸い上げるわけだ。


 途中、茶々を入れた。どうも、キマジメなものを見ると、混ぜっかえしたくなる。申し訳ない。

 引用したのは、反対・賛成のためというより、サンプルとして見せたかったからだ。


 金儲けは、なぜ、しばしば不浄とされるのか。


 もしかしたら、あまりお金が入ってこない人のひがみのようなものも、あるかもしれない(えーと、引用した大学の先生のことを言っているんじゃないよ。もう、サンプルとしての用は済みました)。


 しかし、それ以上に、金というものがもたらす変化が怖いのだと思う。


 金には、ある種、魔術的な力がある(と信じられている)。
 例えば、「金儲けは不浄だ」と考えている人も、家にあった古い壺が実は1千万円すると聞いたら、「やたっ!」と小躍りするだろう。
 人を跳び上がらせ、浮かれ踊らせるのだ。魔術でなくて何であろうか。


 魔術を持つものは、どういう目に合わされるかわからないから、怖い。だから、不浄のものとして遠ざける。そんなところではないか。


 一方で、金儲けを特に不浄と思わず、ガンガン取り組む人もいる。人によって、いろいろではある。


 たぶん、金儲けというのは、とてもスリリングで、面白く、ウレシいものなのだろう。心奪われそうな人は金儲けを不浄として忌避し、心奪われた人はズンズン進むのだ。


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