スリル

 唐突に何なんだが、猫はよく塀の上を歩く。あれはなぜなんだろう。
 高いところから獲物を見つけようという習性なのだろうか。あるいは、優越感にでも浸っているのか。


 知らぬまに我々は猫どもに馬鹿にされているのかもしれない。


 人間のガキどもも、コンクリートのちょっと高くなっところや、溝のすぐ際を、「おおーっと」とか、「やべえ!」とか言いながら、歩きたがる。
 わたしも子どもの頃によくやった。しかもよく落っこちた。


 当時はその手のスリルを求める気持ちがあったのだと思う。


 あるいは、長い坂を自転車で一気に駆け下り、急ブレーキをかける、なんていう無茶もした(そうして、わーっと言いながらよく投げ出された)。


 ああいう無茶をやりたがる心理というのは、何だったのだろう。


 心理学方面からすると、もしかしたら「死への衝動が」とかなんとかいうことになるのかもしれない。
 しかし、あの頃、そんなコムズカしいもの、抱えていたかしら。


 単純に、心がぐわんと盛り上がるような体験をしたかっただけのようにも思う。ガキというのはシラフでもヨッパライだから、理性の抑えがきかない。
 そういえば、「これに成功したらいいことがある」という、自分勝手なマジナイ的思い込みがあった気はするな。


 猫は違う。やつらが塀の上を歩く姿は優雅だ。スリルなんて味わっちゃいない。
 やはり、人間は馬鹿にされているに違いない。


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